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第4話

引っ越しの準備は順調だった。 荷物は少しずつまとめられ、新しい部屋の契約も済んでいる。 あとはタイミングを見て出て行くだけ。 そんなある日、高校時代の同級生から連絡が来た。 久しぶりに飯でも行こうぜ。 特に断る理由もなく了承した。 待ち合わせ場所に現れた同級生を見て、思わず笑う。 「なんか老けたな」 「お前にだけは言われたくねぇ」 そんな軽口を叩きながら居酒屋へ入った。 昔話に花を咲かせていると、不意に同級生が思い出したように口を開く。 「そういや、あいつの噂聞いた?」 「あいつ?」 「ほら、お前と仲良かったやつ」 その言葉だけで誰のことか分かった。 高校時代、いつも一緒にいた彼。 今の恋人。 「あー、あいつね」 できるだけ平静を装う。 「どうした?」 すると同級生は少し身を乗り出した。 「あいつさ、男の恋人いるんだって」 一瞬、息が止まる。 まさか。 どこかで自分とのことが漏れたのかと思った。 自分は誰にもカミングアウトなんてしていない。 だから一気に血の気が引いた。 けれど次の言葉で、その不安は別の感情へ変わる。 「しかも年下らしいぞ」 「へぇ」 努めて興味のないふりをする。 「そうなんだ」 「付き合って半年くらいだって」 グラスを持つ手が止まりそうになった。 半年。 あの日、浮気現場を見た時期とも重なる。 「へぇー」 喉が渇く。 「なんでそんなこと知ってんの?」 なるべく自然に尋ねた。 すると同級生は笑った。 「あいつ本人が言いふらしてるらしい」 「言いふらしてる?」 「恋人できたーって自慢してるって聞いた」 そうか。 思わず心の中で呟いた。 そういうことか。 ずっと引っ掛かっていた違和感が、一つに繋がる。 浮気相手だと思っていた男。 本当は違った。 恋人だったのは、向こうだった。 半年付き合っている恋人。 周囲に自慢するほど大切な存在。 なら、自分は何だったのだろう。 考えるまでもない。 ただの都合のいい相手だったのだ。 胸は不思議なほど痛まなかった。 悲しみよりも先に納得が来た。 だから帰らない日が増えたのか。 だから荷物が減っていたのか。 だから自分に興味がなくなっていたのか。 全部、説明がつく。 「おい、聞いてる?」 同級生の声で我に返る。 「ああ、聞いてる」 グラスの中の酒を飲み干した。 そして静かに思う。 ――やっぱり、あそこにいる理由はもうないな。 迷いは消えていた。 残っているのは、出て行く日を待つだけだった。

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