5 / 10
第5話
「本当にいるものないの?」
念のため、もう一度確認する。
『ねぇよ』
電話の向こうで彼が笑った。
『大丈夫だって』
「……わかった」
「後で後悔すんなよ」
冗談めかして言うと、
『しねぇって』
また笑い声が聞こえた。
『何心配してんだよ』
「別に」
本当は最後の確認だった。
捨ててもいいのか。
本当に何も残っていないのか。
その確認。
『んじゃ俺、そろそろ電車だから切るな』
「仕事頑張れよー」
『おー、またな』
「うぃー」
通話が切れる。
暗くなった画面を数秒見つめてから、静かにスマホをしまった。
そして振り返る。
「では、ここにあるものを処分と買取お願いします」
業者へ声を掛ける。
「かしこまりました」
それを合図に引っ越し作業が始まった。
大きな家具が運び出される。
段ボールが積み上がる。
棚が空になる。
壁際に置いてあった小物も次々と箱へ入れられていく。
どんどん部屋が広くなっていった。
二人で選んだソファ。
休日に組み立てた棚。
些細な喧嘩をしながら決めたカーテン。
思い出はたくさんあるはずなのに。
不思議と名残惜しさはなかった。
むしろ、肩に乗っていた重い何かが少しずつ剥がれていく感覚だった。
そんな時だった。
「お客様」
業者の一人が床の隅で何かを拾い上げる。
小さな銀色の光。
片方だけのピアスだった。
見覚えがある。
あいつが無くしたと騒いでいたピアスだ。
部屋中探して。
俺まで巻き込んで。
結局見つからなかったやつ。
「ちゃんと探せって言ったのにな」
思わず苦笑が漏れる。
馬鹿だな。
本当に。
「こちらどうされますか?」
業者が尋ねる。
ピアスを受け取ることもできた。
荷物に入れておくこともできた。
渡そうと思えば渡せる。
だけど。
「処分で」
迷わず答えた。
「かしこまりました」
業者の手の中でピアスが箱へ落ちる。
小さな音がした。
それだけだった。
思い出も。
約束も。
幸せだった日々も。
全部そこへ置いていく。
俺にはもう、いらない。
ともだちにシェアしよう!

