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第7話
そんなある日だった。
昼休憩を適当に済ませ、デスクに戻ろうとしていた時だった。
「あんた、最近ちゃんと寝れてる?」
突然声を掛けられる。
振り向くと同じ部署の先輩が立っていた。
派手ではないが目を引く整った顔立ち。
本人曰くオネェらしいが、仕事はできるし面倒見もいい。
部署内でも何かと慕われている人だった。
「はい?」
突然の質問に思わず聞き返す。
すると先輩は眉をひそめた。
「顔色悪いわよ」
「そうですかね」
「そうなのよ」
即答だった。
「クマもできてるし、頬もこけてるし」
そんなことないですよ、と言いかけた時だった。
先輩が手に持っていたカップを差し出してくる。
「これ飲んどきなさい」
「え?」
「差し入れ」
「いや、でも」
「いいから」
半ば強引に押し付けられる。
受け取ったカップには見覚えのあるチェーン店のロゴが入っていた。
「男のあたしが言うのもなんだけど」
先輩が肩を竦める。
「あんた、そのままだとモテなくなるわよ」
思わず吹き出しそうになった。
「モテる予定ないんで」
「あら、勿体ない」
先輩はけらけらと笑う。
その笑い方が妙に自然で、少しだけ肩の力が抜けた。
蓋を開けて一口飲む。
レモネードだった。
爽やかな酸味と優しい甘さが口の中に広がる。
冷たさが喉を通り、じんわりと身体へ染み込んでいく。
不思議だった。
ただの飲み物なのに。
少しだけ身体が軽くなった気がする。
「美味しいです」
「あたりまえよ」
先輩は得意げに胸を張る。
「疲れてる時は甘いものと睡眠」
「はぁ」
「あと人に頼ること」
最後の言葉に思わず視線を上げた。
けれど先輩はそれ以上何も言わない。
理由も聞かない。
何があったのかも聞かない。
ただ
「あんた、頑張りすぎなのよ」
そう言って自分の席へ戻っていった。
その背中を見送りながら、もう一口レモネードを飲む。
甘さが胸の奥まで染み込んでいく気がした。
誰かに優しくされたのは、久しぶりだった。
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