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第8話

今日を乗り切れば明日は休み。 その考えだけで何とか仕事を続けていた。 朝から身体が重かった。 熱っぽい気もする。 頭もぼんやりする。 だけど休むほどじゃない。 そう自分に言い聞かせて出社した。 その考えが甘かったと気付いたのは昼過ぎだった。 「あんた、ちょっと来なさい」 背後から聞こえた声に振り返る。 先輩だった。 「え?」 「いいから」 有無を言わせない口調だった。 そのまま腕を引かれ、小さなミーティングルームへ連行される。 ドアが閉まる。 静寂。 そして次の瞬間。 ひやりとした感触が額に触れた。 「っ」 先輩の手だった。 「熱あるじゃないの」 呆れたような声が落ちてくる。 「どうりで返答ないわけよ」 「俺になにか話しかけてました?」 すると先輩は盛大にため息を吐いた。 「少しね」 「すみません」 「仕事の話じゃないけど」 それが余計に申し訳なかった。 自分でも気付かないうちに相当ぼんやりしていたらしい。 先輩は額から手を離す。 「とりあえず次のプレゼン終わったら一緒に帰るわよ」 「でも仕事が」 言い終わる前に睨まれた。 「こんな時でも仕事って言わないの」 「いや、でも」 「でもじゃない」 先輩が腕を組む。 完全に説教モードだった。 「ていうか働きすぎ」 「そんなこと」 「あるのよ」 即答だった。 「少しは休みなさいって言ってるでしょ」 言われた覚えはある。 確かに何度か。 だけどその度に大丈夫ですと返していた。 先輩は額を押さえる。 「あんたねぇ」 心底呆れたような顔だった。 「倒れてからじゃ遅いの」 「……」 「仕事なんて代わりがいる」 その言葉に思わず目を伏せる。 「でも、あんたの代わりはいないのよ」 不意にそんなことを言われた。 冗談っぽい口調なのに。 なぜか胸に刺さる。 しばらく黙り込む俺を見て、先輩は少しだけ表情を緩めた。 「まったく」 小さく息を吐く。 「そうやって全部一人で抱え込む癖、いつか本当に倒れるわよ」 その言葉に返事はできなかった。 なぜなら。 その時初めて。 自分が思っていたよりずっと疲れていることに気付いてしまったからだった。

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