9 / 10
第9話
そしてプレゼンの時間になった。
会議室には既に取引先の人間が集まっている。
本来なら前に立つのは俺だった。
資料を作ったのも俺。
構成を考えたのも俺。
何度も修正して完成させた企画だ。
なのに。
「それでは始めさせていただきます」
前に立ったのは先輩だった。
一瞬、状況が理解できない。
ぼんやりする頭で考える。
なんで。
資料は俺が作った。
誤字脱字だって先輩に確認してもらっている。
問題なんてなかったはずだ。
「こちらの不手際で担当を変更させていただきました」
先輩が頭を下げる。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
その言葉が耳に入る。
だけど意味が上手く頭に入ってこない。
何か考えようとしても思考がまとまらない。
視界が少し揺れる。
身体も重い。
ああ。
もう駄目かもしれない。
そう思った。
次に気付いた時には拍手が聞こえていた。
プレゼンは終わっていた。
いつ終わったのかも分からない。
席から立ち上がろうとすると肩を叩かれる。
「帰るわよ」
先輩だった。
「でも」
「でもじゃない」
有無を言わせない声。
そのまま腕を掴まれる。
「ちょ、先輩」
「歩ける?」
「歩けます」
「怪しいわね」
そう言いながらも先輩は歩幅を合わせてくれた。
部署へ戻ることなく、そのままエレベーターへ向かう。
誰かが何か言っていた気もする。
けれど頭が回らない。
気付けば地下駐車場だった。
ひんやりとした空気が肌に触れる。
先輩は一台の車の前で立ち止まった。
「乗って」
「え?」
「いいから」
急かされるまま助手席へ座る。
シートベルトを締めようとして手が上手く動かない。
そんな俺を見て先輩が呆れた顔をした。
「ほら」
カチッ。
代わりにシートベルトを締められる。
「ありがとうございます」
「今は喋らなくていいわ」
エンジンがかかる。
車がゆっくり動き出した。
街の景色が流れていく。
瞼が重い。
意識が沈んでいく。
「着くまで寝てなさい」
先輩の声が聞こえた。
その言葉に少しだけ安心した。
大丈夫。
そんな気がした。
そして――
俺の意識はゆっくりと闇の中へ沈んでいった。
ともだちにシェアしよう!

