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第12話
先輩が目の前に置いたのは、湯気の立つリゾットだった。
白いクリームソースの中に小さく刻まれたキノコがたっぷり入っている。
優しい香りがふわりと漂った。
「ありあわせで作ったから味は保証しないわよ」
そう言いながら先輩は向かいの席へ腰掛ける。
「作ってもらってすみません」
素直に頭を下げると、先輩は軽く手を振った。
「気にしなくていいわよ」
そして少しだけ笑う。
「あたしも食べたかったし」
その言葉に肩の力が抜ける。
特別扱いじゃない。
だから余計にありがたかった。
「いただきます」
スプーンでひと口掬い、口へ運ぶ。
優しい味だった。
キノコの風味とクリームのまろやかさが溶け合っている。
濃すぎない味付け。
疲れた身体にゆっくり染み込んでいく。
そして何より。
熱すぎない。
猫舌でも食べやすい温度だった。
そのことに気付いて思わず手が止まる。
偶然だろうか。
それとも。
「どう?」
先輩が尋ねる。
「美味しいです」
自然と言葉が出た。
本当に美味しかった。
先輩は満足そうに頷く。
「なら良かった」
それだけ言って、自分も食事を始める。
静かな時間だった。
テレビの音が遠くで流れている。
食器の触れ合う音が時々響く。
それなのに気まずくない。
何を話さなければいけないわけでもなく。
何かを聞かれるわけでもなく。
ただ同じ食卓を囲んでいる。
そんな時間が不思議と心地よかった。
ひと口。
またひと口。
食べ進めるたびに身体が温まっていく。
すると先輩が何気なく口を開いた。
「ちゃんと食べなさいよ」
「食べてます」
「最近のあんた見てると怪しいのよ」
「……」
図星だった。
先輩はそれ以上追及しない。
ただ呆れたように笑うだけだ。
「仕事も大事だけどね」
スプーンを置きながら続ける。
「自分を壊してまでやるものじゃないのよ」
優しい口調だった。
説教ではなく。
ただの忠告。
だからこそ胸に残る。
俺は返事の代わりにリゾットを口へ運んだ。
クリームの優しい甘さが広がる。
温かい。
それだけなのに。
張り詰めていた何かが、少しだけほどけた気がした。
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