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第15話

仕事を終え、会社の外へ出る。 今日は真っ直ぐ帰ろう。 そう思った時だった。 「おーい」 聞きたくない声がした。 身体が一瞬だけ強張る。 振り返ると、そこには元彼が立っていた。 「ちょっといい?」 断る理由も思いつかず、小さく頷く。 「うん」 二人で近くのカフェへ向かった。 落ち着いた雰囲気の店内。 向かい合って座る。 別れてから初めてまともに話す相手なのに、不思議と緊張はしなかった。 「最近連絡ないけど元気してっかなって」 元彼がコーヒーを飲みながら言う。 「え?」 「いや、元気かなって」 「ああ」 少し考えてから答えた。 「うん、元気だよ」 「そっか」 安心したように笑う。 その笑顔を見ても何も感じなかった。 昔なら嬉しかったはずなのに。 他愛もない話が続く。 仕事のこと。 共通の知人のこと。 最近見た映画のこと。 まるで何事もなかったかのような会話だった。 そしてふと、同級生から聞いた話を思い出す。 聞くつもりはなかった。 聞いたところで何かが変わるわけでもない。 それでも口が勝手に動いた。 「そういえばさ」 「ん?」 「恋人できたって聞いたけど」 元彼は少し照れたように笑った。 「あー、聞いたんだ」 否定しない。 それだけで十分だった。 「うん」 「そうなんだよね」 どこか嬉しそうな声。 「もう半年くらいになるかな」 半年。 その言葉が胸に落ちる。 俺と暮らしていた頃だ。 俺の隣で眠っていた頃だ。 俺に好きだと言っていた頃だ。 「へぇ」 それしか言えなかった。 元彼は気付かない。 気付くはずもない。 楽しそうに恋人の話を始める。 可愛いとか。 優しいとか。 一緒にいて楽しいとか。 休日はどこへ行ったとか。 そんな話をずっと聞いていた。 本当に幸せそうだった。 俺は相槌を打ちながら考える。 結局。 俺は何だったんだろう。 告白されたはずだった。 好きだと言われたはずだった。 一緒に住もうと言われたはずだった。 それなのに。 その全部が嘘みたいだった。 恋人の話をする元彼は眩しいくらい幸せそうで。 そこに俺の居場所なんて最初からなかったみたいで。 胸が痛むと思っていた。 怒りが込み上げると思っていた。 だけど違った。 ただ疲れた。 それだけだった。 その時、元彼のスマホが震える。 画面を見た瞬間、表情が柔らかくなった。 「あ、恋人から連絡きた」 そう言ってすぐに返信を打ち始める。 本当に大事なんだなと思った。 「そろそろ帰るわ」 「うん」 「またな」 「お疲れ」 短く言葉を交わし、店を出る。 振り返ることはなかった。 家に帰る。 玄関の扉を閉める。 着替える気力もなく、そのままベッドへ倒れ込んだ。 布団を頭まで被る。 暗い。 静かだ。 疲れた。 ただ、それだけだった。 何も考えたくない。 何も思い出したくない。 結局俺は何だったんだろう。 その答えだけは分からないまま。 俺は目を閉じた。

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