18 / 41
第18話
先輩に背中を撫でられていると、不思議なくらい呼吸が落ち着いていった。
さっきまで止まらなかった涙も、少しずつ収まっていく。
泣き疲れたのかもしれない。
それとも。
安心してしまったのかもしれない。
先輩の肩にもたれたまま小さく息を吐く。
すると今度は別の感覚が襲ってきた。
瞼が重い。
何度か瞬きをする。
だけど眠気はどんどん強くなる。
寝不足が響いているのだろう。
昨夜はほとんど眠れなかった。
そのことを思い出したところで、小さく欠伸が漏れた。
先輩も気付いたらしい。
「あら」
くすりと笑う気配がする。
「眠い?」
「少し……」
自分でも驚くくらい素直な返事だった。
先輩は優しく髪を撫でる。
「寝てもいいのよ」
その声はどこまでも穏やかだった。
「でも仕事が……」
「明日は休みにしとくから」
さらりと言われる。
思わず顔を上げた。
「え」
「有給くらい使いなさい」
先輩は呆れたように笑う。
「今のあんたに必要なのは仕事じゃなくて睡眠よ」
反論しようとしてやめた。
正論だったから。
「ゆっくり休みなさい」
背中をぽんぽんと叩かれる。
「帰りに様子見に来るから」
その言葉に胸が少し温かくなる。
「先輩に甘えっぱなしですみません」
そう言うと先輩は眉を下げた。
「だから謝らなくていいのよ」
まるで聞き飽きたと言わんばかりの口調だった。
「そういう時くらい人に頼りなさい」
そして少し考えるような顔をした後。
「そうね」
小さく笑う。
「明日の食べたいものでも考えときなさい」
「食べたいもの……」
「なんでも作るとは言わないけどね」
そう言って肩を竦める。
思わず少しだけ笑った。
何がいいだろう。
温かいものがいいかもしれない。
それとも甘いものだろうか。
そんなことをぼんやり考える。
だけど途中から思考がまとまらなくなった。
瞼が重い。
身体も重い。
意識がゆっくり沈んでいく。
遠くで先輩の声が聞こえた気がした。
「おやすみ」
優しい声だった。
それを最後に。
俺の意識は静かな眠りの中へ落ちていった。
ともだちにシェアしよう!

