19 / 41

第19話

起床のアラームで目が覚めた。 いつもの癖でスマホを止めてから数秒。 ぼんやりと天井を見つめる。 あれ。 俺、いつ寝たんだっけ。 そこでようやく自分がソファーに寝ていることに気付いた。 身体を起こす。 肩から滑り落ちたのはブランケットだった。 先輩が掛けてくれたのだろう。 そう思いながら周囲を見回す。 部屋は静かだった。 昨日まで頭の中を埋めていた重苦しさも少しだけ薄れている。 近くのテーブルを見るとメモが置かれていた。 見覚えのある綺麗な字。 『ちゃんとご飯食べて寝てなさい』 短い一文。 だけどどこか先輩らしい。 思わず小さく笑ってしまう。 「はいはい」 誰もいない部屋で返事をする。 そこで腹が鳴った。 昨日は泣いて、そのまま寝てしまった。 まともに夕飯を食べていない。 「お腹空いたな」 立ち上がりキッチンへ向かう。 するとコンロの上に鍋が置いてあった。 何だろうと思いながら蓋を開ける。 赤いスープが顔を出した。 ミネストローネだった。 トマトの香り。 野菜の甘い匂い。 見るだけで美味しいのが分かる。 「美味しそう」 思わず呟く。 先輩が作ってくれたのだろう。 昨日のうちに用意してくれていたらしい。 鍋を火にかける。 ぐつぐつと音を立て始めるスープを眺める。 不思議だった。 少し前まで何も食べたくなかったのに。 今はちゃんとお腹が空いている。 ちゃんと食べたいと思える。 温まったミネストローネを器によそう。 テーブルへ運び、スプーンを手に取った。 ひと口。 トマトの酸味と野菜の甘みが広がる。 身体に染み込むような優しい味だった。 思わずもうひと口食べる。 気付けば夢中になっていた。 一人で食べているはずなのに。 どこか一人じゃない気がした。 テーブルの上には置き手紙。 キッチンには先輩が作ったスープ。 それだけで。 少しだけ心が温かくなった。

ともだちにシェアしよう!