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第24話
仕事を終え、会社を出た時だった。
「すみません」
知らない声に呼び止められる。
最初は自分じゃないと思った。
だけど相手はこちらを見ている。
「白田さんの同級生の方ですか?」
その名前を聞いた瞬間、足が止まった。
白田。
俺が同棲していた相手。
俺が恋人だと思っていた相手。
振り返る。
そこにいたのは見たくない顔だった。
あの日。
白田と抱き合っていた男。
居酒屋へ入っていった男。
「僕、白田さんとお付き合いしてる者ですけど」
人懐っこそうな笑顔。
悪意なんて一切ない顔。
「少しお話いいですか?」
断りたかった。
今すぐ帰りたかった。
だけど。
どうしても断れなかった。
結局、近くのチェーン店のカフェへ入る。
向かいに座る男はどこか落ち着かない様子だった。
飲み物が運ばれてきても、なかなか本題を切り出さない。
そして数分後。
「あの」
意を決したように口を開く。
「お話したいことがいくつかあって」
「……何?」
「白田さんの食べ物の好みとか」
予想外の言葉だった。
思わず瞬きをする。
「そういうの聞きたくて」
「自分で聞かなかったの?」
男は困ったように笑った。
「聞いたんですけど」
「うん」
「何でも好きって言うから」
ああ。
思わず納得する。
白田はそういう奴だった。
面倒になると何でもいいと言う。
相手に合わせるのが上手いというより、自分のことを話さない。
「そっか」
自然と声が漏れた。
すると男は少し安心したように笑う。
「白田さんの別の同級生の方と会ったんです」
「へぇ」
「そしたら、あなたなら色々知ってるはずだって」
胸の奥が嫌な音を立てた。
色々知ってる。
当然だ。
一緒に住んでいた。
好きな飲み物も。
嫌いな食べ物も。
寝る時の癖も。
機嫌の悪い時の顔も。
全部知っている。
知っていた。
だけど。
その知識を今さら何に使うんだろう。
目の前の男は気付いていない。
俺が誰だったのか。
白田にとってどんな存在だったのか。
何も知らない。
ただ純粋に恋人のことを知りたくて来たのだろう。
その無邪気さが少しだけ苦しかった。
「白田さんって」
男は嬉しそうに話し始める。
「昔からあんな感じなんですか?」
俺はカップを握りしめた。
逃げ出したい。
だけど。
逃げることもできなかった。
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