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第26話
お会計を済ませて店を出る。
そのまま帰ろうとして。
ふと足を止めた。
そういえば。
視線の先には見覚えのあるチェーン店。
少し前までよく立ち寄っていた店だった。
自然と足が向く。
レジで冷たいレモネードを注文する。
初めて飲んだのは先輩にもらった時だった。
顔色が悪いと言われて。
無理をするなと言われて。
半ば強引に押し付けられたレモネード。
受け取ったカップを見つめる。
ひと口飲む。
爽やかな酸味。
優しい甘さ。
味は変わっていなかった。
それが妙に嬉しかった。
少しだけ安心する。
冷たいレモネードを飲みながら歩いていると、ふと思い出した。
そういえば。
先輩から連絡するよう言われていた。
仕事が終わったら連絡しなさい。
確かそう言われていた気がする。
スマホを取り出す。
少しだけ迷ってから発信ボタンを押した。
数回のコール音。
すぐに繋がる。
『遅かったじゃなーい』
いつも通りの声だった。
その瞬間。
張り詰めていたものが揺らぐ。
泣きそうになる。
慌てて唇を噛んだ。
『もしもし?』
「すみません」
『何かあったわね』
即答だった。
隠せているつもりだったのに。
『またなんかあったでしょ』
優しい声だった。
責めるわけでもなく。
問い詰めるわけでもなく。
ただ分かっているという声。
「はい」
それだけ言うので精一杯だった。
電話の向こうで小さくため息が聞こえる。
『そのまま私の家に来なさい』
「え」
『着替え用意しとくわ』
迷う間も与えてくれない。
いつもの先輩だった。
「ありがとうございます」
声が少し震えた。
『ちゃんと寄り道せずに来るのよ』
「はい」
『コンビニも駄目』
思わず少し笑う。
「分かりました」
『よろしい』
そこで電話は切れた。
静かになる。
だけど不思議と一人じゃない気がした。
レモネードをもうひと口飲む。
冷たいはずなのに。
胸の奥は少しだけ温かかった。
俺はスマホをポケットへしまい、先輩の家へ向かって歩き出した。
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