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第27話

先輩の家に着いた瞬間だった。 玄関のドアが閉まる音を聞いた途端。 何かが切れた。 ずっと我慢していたもの。 蓋をしていたもの。 見ないふりをしていたもの。 全部。 もういいや。 そう思った。 「先輩」 靴も脱ぎ終わらないうちに声が出る。 先輩は何も言わない。 ただこちらを見ている。 だから話した。 洗いざらい。 全部。 男と同棲していたこと。 男と付き合っていたこと。 好きだったこと。 信じていたこと。 一緒に生きていくつもりだったこと。 そして。 その男に騙されたと思っていること。 男の恋人に会ったこと。 自分が何だったのか分からなくなったこと。 今まで誰にも言えなかったこと。 言えなかったから苦しかったこと。 全部。 言葉が止まらなかった。 途中から何を話しているのか自分でも分からなくなった。 泣きながら。 時々言葉を詰まらせながら。 それでも話した。 全部吐き出した。 先輩は一度も遮らなかった。 驚いた顔もしない。 否定もしない。 責めもしない。 ただ静かに聞いていた。 最後の言葉が落ちる。 部屋が静かになる。 俺は息を切らしながら俯いた。 言ってしまった。 全部。 知られたくなかったこと。 隠していたこと。 全部。 嫌われるかもしれない。 気持ち悪いと思われるかもしれない。 そんな考えが頭を過る。 怖かった。 だけど。 先輩は何も言わない。 長い沈黙の後。 小さく息を吐いた。 「大変だったわね」 最初に出てきたのはその言葉だった。 責める言葉じゃない。 驚く言葉でもない。 ただ。 今までの俺を労る言葉だった。 「男が好きとか」 先輩は肩を竦める。 「そんなの今さらよ」 思わず顔を上げる。 先輩は苦笑していた。 「世の中には色んな人がいるんだから」 当たり前のことを言うように。 「それで嫌いになったりしないわよ」 その瞬間。 また涙が溢れた。 今度は止めようともしなかった。 先輩はそんな俺にティッシュを差し出す。 「ほんと」 困ったように笑う。 「あんた、一人で抱え込みすぎなのよ」 優しい声だった。 それだけで。 ようやく少しだけ。 肩の荷が下りた気がした。

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