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第34話
リゾットを食べ終え、二人で食後のコーヒーを飲んでいた。
テレビはついているものの、誰も見ていない。
静かな時間が流れる。
そんな中、先輩がぽつりと口を開いた。
「最近思うのよねぇ」
「何ですか?」
「そろそろ恋人欲しいなぁって」
突然の話題に思わず笑う。
「いいですね」
「そう?」
「先輩ならすぐできますよ」
先輩は首を傾げる。
「そうかしら」
「はい」
迷いなく頷いた。
「料理もできますし」
「優しいですし」
「気遣いもできるし」
「甘えさせてくれそうですし」
「絶対いい人見つかりますよ」
先輩は何も言わなかった。
ただ、じっと俺を見ている。
少しだけ沈黙が流れた。
「じゃあ」
その一言だけ。
今まで聞いたことのない声だった。
オネェ口調ではない。
低く、落ち着いた男の声。
「なってくれない?」
思考が止まる。
「……え?」
聞き間違えたのかと思った。
だけど先輩は目を逸らさない。
まっすぐ俺を見ている。
「先輩、それ……」
「冗談だと思う?」
言葉が出なかった。
先輩は静かに首を横へ振る。
「冗談抜きで、本気」
その言葉は真っ直ぐだった。
照れ隠しも。
笑いもない。
ただ本心だけがそこにあった。
「あなたといる時間が好き」
「無理して笑うところも」
「人に頼るのが下手なところも」
「リゾット食べたいだけで何日も悩むところも」
思わず顔が熱くなる。
「全部見てきた」
先輩は小さく息を吐く。
「気付いたら放っておけなくなってた」
静かな部屋にその声だけが響く。
俺は何も言えなかった。
言葉が見つからない。
すると先輩は少しだけ笑った。
今度はいつもの柔らかい笑顔だった。
「返事は今じゃなくていいわ」
オネェ口調が少し戻る。
「今のあんたは恋愛どころじゃないもの」
「だから焦らなくていい」
立ち上がり、空になったカップを持つ。
キッチンへ向かいながら足を止めた。
振り返る。
「でもね」
優しく笑う。
「私は本気だから」
その言葉だけを残して、先輩はキッチンへ歩いていった。
俺はしばらく、その場から動くことができなかった。
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