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第40話
「先輩だって」
思わず声が漏れた。
「なに?」
先輩は俺を見つめたまま聞き返す。
「先輩だって……」
胸の奥に押し込めていた感情が、一気に溢れそうになる。
「他の子にリゾットのレシピ教えたって聞きましたよ」
先輩が少しだけ目を見開いた。
「それがどうしたのよ」
「俺にはくれなかったくせに」
「ちょっ……」
何か言おうとする先輩を遮るように、言葉が止まらなかった。
「公私混同しないように、こっちは必死なんですよ!!」
声が震える。
「会社では普通の後輩でいようって決めて」
「仕事だけ見て」
「ご飯も断って」
「一緒に帰るのも避けて」
「先輩のこと考えないようにして」
「全部、全部頑張ってたのに……」
涙が零れる。
慌てて拭っても、次から次へと溢れてくる。
「先輩は普通に笑うし」
「普通に他の人と話すし」
「普通に優しいし」
「俺だけ必死みたいじゃないですか……」
もう止まらなかった。
「また傷付くのが怖いんです」
「期待したくないんです」
「だから距離置こうって思ったのに」
「先輩がいると無理なんですよ……」
俯いたまま先輩の腕を押す。
「帰らせてください」
逃げたかった。
これ以上ここにいたら、本当に先輩に甘えてしまう。
だけど。
腕はびくともしなかった。
それどころか。
ふわりと身体が包まれる。
「……え」
気付けば先輩に抱き締められていた。
優しく。
だけど離さないというように。
「もう十分」
耳元で静かな声がする。
「そこまで一人で頑張らなくていい」
背中をゆっくり撫でられる。
「公私混同してるのは、私も同じ」
主人公は息を呑む。
「会社では先輩だから我慢してるだけ」
「本当は毎日一緒に帰りたい」
「毎日ご飯作ってあげたい」
「他の男と出張なんて行かせたくなかった」
少しだけ苦笑する。
「リゾットのレシピだって教えなかったんじゃない」
「教えたら、自分で作れるようになって家に来る理由がなくなるでしょ」
その言葉に思わず顔を上げる。
先輩は照れくさそうに笑った。
「我ながら最低だなって思うわ」
「でも、それくらい本気なの」
抱き締める腕に少しだけ力が入る。
「だから」
「もう一人で我慢しないで
「私にも、あんたを好きでいる権利くらい頂戴」
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