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第4話 共鳴する夜

食事が終わり、両親の勧めもありオーウェンは屋敷に留まることになった。リリズは面白くなく、そそくさと自室に引き上げることにしたのだった。 ─そして夜、 リリズがエントランスのテラスへ行き、夜風に当たろうとしたとき、ギョッとした。 そこにはオーウェンが寝転がっていた。 最初は星でも見ているのかと思ったが覗き込んでみると、静かな寝息を立てて眠っていた。 (床で寝るなんて…こいつ、本当に貴族か…?) 銭湯での一件もあり、リリズはますますオーウェンを訝しんでいた。初日に婚約者の家のテラスで爆睡なんて、きちんとした教養を持っているとは思えない。 でも、だとしたらどうやって両親に認められてこの屋敷へ招かれたのか。 上から下へと視線を流し、ふと、はだけたシャツから覗く銀色のネックレスに目がとまる。 女性が付けるような、細かく意匠を凝らしたネックレスだ。 気づかれないよう、そっと手を伸ばす。 ちょっとした好奇心だった。 オーウェンに恥をかかせて俺にもこの家にも幻滅してくれたらいい。そんなふうに思った。 俺は奪ったネックレスを隠すことした。 オーウェンはまったく起きる気配がない。 特殊な力を持つ俺たち貴族にとって、他人の家で爆睡なんて、まったく危機感がないとしか言いようがない。 それにしても… (ほんとうに、無駄に綺麗な顔だな…。) 改めて見てもオーウェンは美貌の青年だと思った。それだけで両親の目を惹いたかもしれない。 だが、今日の食事の席ではその美貌に惹かれることはなかった。話している時のオーウェンは、俺を見る猫目と、愛嬌のある笑顔が遥かに見た目の美醜を凌駕して可愛らしいのだ。 (まあ、この男だって近いうちに屋敷を去ることになる) この美貌なら一度身体を重ねたいと思わなくもないが、そうなれば両親の思うツボだ。既成事実はつくらない方がいいだろう。 ネックレスを弄びながら、俺は彼の漆喰のようにきめ細かく闇に映える顔をしばらく鑑賞することにした。 ※ ※ ※ 翌朝、支度をして廊下に出ると、何やらオーウェンらしき声とメイドの話し声がした。だいたいの察しはついたが、俺は平静を装い近づいていった。 「あの…すみません…ネックレスをなくしてしまって…見かけませんでしたか?」 下女や給餌に聞いて回るオーウェン。 「おい」 「あ…おはようございます、リリズ様」 「何をしている?」 「あの…実は昨日大切なネックレスをなくしてしまって…」 オーウェンは寝巻き姿のまま、みっともなくオドオドと屋敷中を探していたようだった。 俺は内心、ざまぁと思った。 こいつをこのまま追い出してやる。ここから、だめ押しと言わんばかりに俺は畳み掛けた。 「お前はこの屋敷の者が盗ったと疑っているのか?」 「え…? そんな、まさか。僕の不注意でなくしてしまったんです、誰かを疑ってはいません」 オーウェンは恐縮したように俺にお辞儀をして立ち去ろうとしたので、俺は乱暴にオーウェンの腕を掴んで引き寄せた。 「────!!?」 「ネックレスを探すフリをして、ここに滞在し続けたいんだな」 「ち、違いますっ!! ただあれは母から預かった大事なものなので、肌身離さず持っていたいんです…!!持っていたのに…どうして…」 オーウェンはそういうととても悲しそうな目をした。 ──不意に、そんな不安定な様子を見て、強烈に引っ張って行かれる感覚になる。 目眩がして、掴んでいた手を思わず離した。 「……っ…!!?」 (──なんだ……!? これ…!?) リリズには思い当たることがあった。 そういえば、『特殊な力』を持つ者のなかでも、“人の内部“を見たり変えたりできる者同士は“共鳴“することがある、と。 自分の家柄もその系譜のうちだが、俺の力は限定的なはずだが… (まさか…これが共鳴──!?) 初めての経験に俺は少し動揺したが、これは自分の感情じゃないとすぐに気を取り直してオーウェンを見る。 「…落ち着け、何動揺してんだよ…」 オーウェンは頭を抑えてぶつぶつと呟いている…。 「僕が不注意だから…、父と母が離れ離れになったのだって僕の…」 「…?」 「──っ…すいません、何でもありません…」 そう言って、オーウェンは真っ青な顔のまま部屋へと引き上げて行った。 (なんなんだ…、あいつ…) リリズもまた茫然としていた。 初めて会った時から不思議だった。 オーウェンの“色“はいつだって“真っ白“だった。それがいったい何を意味するのか、わからなかった。 だけど一瞬、共鳴した瞬間だけ、強い動揺が感じられた。 貴族である以上、オーウェンにも何かしらかの力があるはずだ。 今までみたいに“色“の変化で感情を知ることができないことも、その力に関係するかもしれない。 何と言ってもあの黒い噂の絶えない、アッシュフォルデ家の人間だ。 まさか両親は騙されてはいないだろうが。得体の知れない相手にリリズは嫌な胸騒ぎがしたのだった。

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