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第一章 高等部 1話 壊れた日常2
廊下の反対側。
窓際の壁に、久遠政輝 がもたれていた。
金色の髪が朝の光を拾って、淡く光っている。
長い脚。
ポケットに入れた手。
凪いだ瞳は、青に水色を溶かしたような色をしていた。
光を受けると淡く透けるのに、目元と口元に空いたピアスだけが妙に鋭い。
顔の造形もあって、近寄りにくい雰囲気のせいで、周囲の生徒は自然に少し距離を取っていた。
政輝は、友人らしい数人の男子の近くにいた。
けれど、会話にはほとんど入っていない。
視線だけが、涼に向いていた。
顔ではない。
手。
肩。
呼吸。
女性教員との距離。
政輝の眉が、わずかに動いた。
涼は資料を受け取り、何事もなかったように紙面を見る。
「昼までに修正します」
「お願いね」
「はい」
女性教員が離れる。
空気が戻る。
涼はふと、窓際を見る。
政輝と目が合った。
何事もなかったかのように、すぐに目を逸らす。
それから、資料を持っていない方の手で、ネクタイの結び目に触れた。
直すほどではない。
緩めるほどでもない。
ただ、触れただけ。
政輝はそれを見た。
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「久遠」
隣の男子が言った。
「ホームルーム行かねぇの?」
政輝は涼から視線を外さないまま答えた。
「だりぃ」
「朝からそれかよ」
「朝だからだろ」
「お前、昨日も一限寝てたじゃん」
「寝たな」
「今日も寝るだろ」
「多分」
男子が笑った。
「単位終わるぞ」
「知らねぇ」
「いや知れよ」
政輝は返事をしなかった。
その顔は本当に面倒そうで、怠そうで、学校生活に対する関心が薄かった。
授業が嫌い。
朝が面倒。
教師に怒られても気にしない。
そういう種類の人間に見える。
実際、それも間違いではなかった。
「先行け」
政輝が言う。
「またかよ」
「うるせぇ」
男子は肩をすくめて、他の生徒と歩いていった。
政輝は壁から背中を離した。
涼の方は見ない。
声もかけない。
ただ、廊下を反対方向へ歩き出す。
涼もそれを見ることなく、生徒会室の前で、いつも通り資料をまとめている。
誰も気にしない。
光出涼は生徒会長で、そして寮制でもあるこの学校の寮長で、その人柄と能力から教師にも生徒にも頼られている。
久遠政輝は、生徒会にも部活にも属さない。
授業中は寝ていることが多く、必要以上に人と関わろうとしない。
学校の中では、二人はそういう配置だった。
同じ場所にいても、並ばない。
人前で話しているところをほとんど見かけない。
周囲から見れば、そのはずだった。
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