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第一章 高等部 4話 はじめて会った日1
小学三年、四月。
朝の教室は、少しだけ騒がしかった。
久遠政輝は、廊下で担任の隣に立っていた。
教室の中から、子どもたちの声が漏れてくる。
「男の子らしいよ」
「海外からだって」
「英語喋るのかな」
扉一枚隔てただけで、好奇心がざわざわと膨らんでいるのが分かった。
政輝はそれを聞きながら、少しだけ眉を寄せた。
面倒くさい。
まず、そう思った。
この学校は、小学校から大学まで続く一貫校だった。
幼い頃から同じ制服を着て、同じ校章をつけて、同じ家の名前を背負った子どもたちが、そのまま少しずつ上へ上がっていく。
途中から入る子どもは珍しい。
まして、海外から来た金髪の子どもとなれば、余計に目立つ。
政輝にもそれは分かっていた。
分かっていたが、だからといって愛想よく振る舞う気にはなれなかった。
担任が扉を開けた。
「席について」
教室の中が、少しずつ静かになる。
政輝は担任に促されて、教室へ入った。
まず目に入ったのは、窓だった。
大きな窓。
春の光。
その次に、こちらを見るたくさんの顔。
みんな同じ制服を着ている。
同じ机。
同じ椅子。
同じ空気。
政輝は教室をざっと見た。
知らない場所。
知らない言葉の速さ。
知らない視線。
その中に、一人だけ、少し違う子がいた。
黒い髪の男の子。
飼育棚の近くから戻ってきたらしく、席につく途中だった。
白い顔。
静かな目で、子供にしては妙に整った顔をしている子供だった。
騒いでいるわけでも、じっと見つめているわけでもない。
ただ、こちらを見ていた。
他の子どもたちの好奇心とは少し違う。
政輝は一瞬だけ、その子を見た。
担任が黒板に名前を書いた。
久遠政輝。
白いチョークの音が、教室に響く。
「海外で育っていました。仲良くしてください」
それから担任が政輝を見る。
「じゃあ、自己紹介を」
政輝は教室を見た。
視線が集まる。
期待。
珍しさ。
少しの遠慮。
そういうものが一斉に向いてくる。
「久遠です」
短く言った。
教室が少し止まる。
担任が笑った。
「好きなものとか、あるかな」
「スポーツ」
「他は?」
「別に」
また、少し空気が止まった。
何か言わなければいけないらしい。
でも、思いつかなかった。
無理に言うほどのこともなかった。
担任だけが「これからよろしくね」と明るく言った。
政輝は窓側の後ろの席へ案内された。
椅子に座る。
机の高さが少し合わない。
鞄を横に置いて、窓の外を見る。
校庭には、まだ朝の光が残っていた。
それで終わりだった
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