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第一章 高等部 4話 はじめて会った日10

小学三年、六月。 あの日から2週間程が過ぎた。 梅雨が近いせいか、朝から空気が重かった。 教室の窓は開いていたけれど、入ってくる風はぬるくて、あまり意味がなかった。 黒板の前では先生が算数の問題を書いている。チョークの音が、少し眠くなる速さで続いていた。 政輝は、一番後ろの窓際で頬杖をついていた。 興味はなかった。 聞けば分かる。だから、ずっと聞いている必要もない。 ぼんやりと教室を眺める。 前の席の少し右。 光出涼。 最近、気づけば見ていた。 理由はよく分からなかった。 ただ、あの日からだった。 昼休みの終わり、キーホルダーがなくなって、教室の空気が自分へ向いた時。光出が「僕もいたよ」と嘘をついた日。 あの日から、少しだけ目が向くようになっていた。 今日の光出は、少し違った。 教室に入ってきた時から、なんとなくそう思っていた。 友達と話していた。 飼育棚も見ていた。 ウサギの頭を軽く撫でて、亀の水槽を覗き込んで、いつも通りだった。 なのに。 朝、友達に話しかけられた時、返事をするまでに少しだけ間があった。 算数のノートを取る手が、いつもより遅かった。 先生に指名された時は普通に答えたけれど、答え終わった後、ほんの一瞬だけ黒板を見たまま止まっていた。 眠いのかもしれない。 そう思った。 昼休み前、隣の席の男子が光出に聞いた。 「昨日、寝るの遅かったの?」 光出は少しだけ顔を上げた。 「うん」 「ゲーム?」 「違うよ」 「じゃあ何」 「先生」 「学校の?」 「家の」 男子は不思議そうな顔をした。 「家の先生?」 「うん。昨日は英語と、帝王学」 「ふうん。大変だな」 「そうかな」 光出は少し笑った。 それ以上、説明しなかった。 政輝は頬杖をついたまま聞いていた。 家の先生。 講師のことだろうと思った。 久遠家にも家庭教師はいた。必要な時だけ来る。 分からないところを教えてくれる。それ以上でもそれ以下でもない。 でも光出の言い方は、少し違った。 それが当たり前の予定として、毎日の中に組み込まれているような言い方だった。

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