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第一章 高等部 4話 はじめて会った日12

校庭は、白っぽい光でぼやけていた。 湿った土の匂いがする。 昼休みの校庭には、何組もの子どもたちが出ていた。 鬼ごっこをする子、鉄棒に向かう子、日陰で話している子。 政輝は、結局、教室には残らなかった。 何をするつもりもなかった。 ただ、窓から見るより、外にいた方が光出がよく見えた。 サッカーはすぐに始まった。 光出は前に出すぎない。 でも、ボールが来る場所にはちゃんといる。人の間を抜けるのが上手い。ぶつからない。 声を出しすぎないのに、周りが動きやすいところへパスを出す。 「涼、こっち!」 「うん」 短く返して、光出がボールを蹴る。 強くはない。 でも、ちょうどいい場所へ行く。 受け取った男子が走り出して、笑った。 「ナイス!」 光出も少し笑う。 普通だった。 普通に見えた。 けれど、政輝は違うと思った。 一度走ったあと、光出はいつもより少しだけ戻るのが遅い。 ボールを追う前に、半歩だけ遅れる。 転ぶわけでもない。 苦しそうなわけでもない。 ただ、今日は反応が少し遅い。 眠い時の動きだった。 それでも笑う。 「大丈夫?」 同じチームの男子が聞いた。 「うん」 光出はすぐに答えた。 「平気」 その声は、本当に平気そうだった。 だから相手も気にしない。 「じゃあ次、涼前ね」 「分かった」 光出は頷く。 そのまま走った。 政輝は校庭の端で見ていた。 何で見ているのか、自分でも分からなかった。 サッカーが見たいわけではない。 光出が上手いことは、もう分かっている。 でも、目が離れなかった。 昼休みが終わるチャイムが鳴った。 子どもたちが一斉に校舎へ戻り始める。 「暑かったー」 「水飲みたい」 「次、何だっけ」 「国語」 「最悪」 声が重なる。 光出は友達と一緒に歩いていた。 笑っている。 けれど、階段を上がる時、少しだけ足が遅れた。 手すりに指を置く。 支えるというほどではない。 ただ、疲れている子どもが無意識にそうするくらいの仕草だった。 政輝は後ろからそれを見ていた。 教室に戻ると、光出はすぐに自分の席へ座った。 机の横にかけていた水筒を取り、少しだけ水を飲む。 友達が何かを話しかける。 光出は笑って答えた。 「うん」 いつも通り。 いつもの光出涼。 でも、政輝には少し違って見えた。 給食も、いつもより遅かった。 好きだと言っていたメニューの日だったはずなのに、箸の進みが遅い。残してはいない。 ただ、少しずつ食べている。 「涼くん、今日食べるの遅いね」 友達が言った。 「そうかな」 「昨日、家の授業が長かったの?」 「うん。あと、夜に会食があった」 「会食?」 「お父様の」 光出は普通に答えた。 「少しだけ挨拶周りがあって」 「すご」 「すごくないよ。座ってただけ」 そう言って、光出はまた少し笑った。 政輝は箸を持ったまま止まった。 夜に父親の会食へ行く。 知らない大人に挨拶をする。 家に帰ってから、講師の授業を受ける。 そして次の日、普通に学校へ来る。 友達と話して、飼育棚を見て、サッカーに誘われたら行く。 それが光出にとっては、普通なのかもしれなかった。 政輝はそれを、少し変だと思った。 家というものは、もっと楽な場所だと思っていた。 英語で話せて、母親が笑って、父親は忙しくてもちゃんと自分を見る。 眠ければ眠いと言えばいいし、疲れていれば休めばいい。 光出の家は、少し違うのかもしれない。 まだ、はっきりとは分からない。 でも、そう思った。 午後の授業が始まった。 先生の声が前から聞こえる。 光出は黒板を見ていた。 背筋は伸びている。 鉛筆を持つ手も静かだった。 さっきまで少し眠そうだったことも、階段で手すりに触れたことも、給食が遅かったことも、もう誰にも分からない。 政輝はじっと見ていた。 なんで、平気そうな顔をするんだろう。 そう思った。 平気じゃないなら、そう言えばいい。 眠いなら、眠いと言えばいい。 でも、光出はそうしなかった。 多分、言うほどのことじゃないと思っている。 毎日そうだから。 それが普通だから。 政輝には、まだうまく言葉にできなかった。 ただ、気になった。 光出が笑っている時。 返事が少し遅い時。 歩く速度が少し変わる時。 給食を食べるのが遅い時。 そういう、小さいところが。 政輝は涼をただ、見ていた。 どうして見るのか理由は、まだ分からなかった。 その時は。

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