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第一章 高等部 5話 校舎裏2
チャイムが鳴った。
四限が終わる。
教室が一気に騒がしくなった。椅子の音、購買へ急ぐ足音、弁当箱を出す音。昼休みの空気が流れ込んでくる。
「久遠、購買行く?」
隣の男子が声をかけた。
政輝は鞄から財布を出しながら立ち上がる。
「行く」
「珍し。お前こういう時は動くんだな」
「飯は要るだろ」
「授業は要らないのに?」
「飯と授業を同列にすんな」
男子が笑う。
政輝は教室を出ようとして、前方を見た。
涼はまだ席にいた。
教師に呼び止められている。
「光出、このあと少し時間あるか」
「はい」
「文化祭の来賓案内なんだが、昼休み中に確認しておきたい」
「分かりました」
涼はすぐに立った。
机の上の教科書を閉じ、ノートを揃える。昼食の袋はまだ鞄の中に入ったままだった。
政輝はそれを見た。
何も言わない。
人前だった。
教師と涼が教室を出る。
政輝は少し遅れて購買へ向かった。
購買は混んでいた。
昼休みの廊下には、急ぐ生徒の声が響いている。パンの袋を抱えた下級生が走り、教師に注意されていた。
政輝は列に並んだ。
面倒だった。
でも飯は要る。
久遠家では、そういうところは妙にきちんとしていた。授業をサボっても、朝食を抜くな。面倒でも水は飲め。寝不足なら寝ろ。食べるものがないなら買え。
当たり前のことを、当たり前にする。
それは政輝の中にかなり深く浸透していた。
だから、怠いと思いながらも購買には来る。
自分の分のパンと、水。
それから、少し考えて、もう一つパンを取った。
甘くないもの。
涼が食べられそうなもの。
飲み物ももう一本。
会計を済ませて戻る頃には、廊下の人は少し減っていた。
教室へ戻る途中、涼が職員室前でまだ教師と話しているのが見えた。
手には資料。
表情はいつも通り。
「では、こちらの導線は一般生徒用と分けます」
「そうだな。理事側と保護者が重ならない方がいい」
「案内係には、事前に説明しておきます」
「頼む」
涼は頷く。
教師が離れた。
その瞬間、別の生徒が声をかける。
「光出くん、寮の掲示の件なんだけど」
「うん」
涼はすぐに振り向いた。
「文面、少し見せてもらえる?」
「今?」
「急ぎじゃなければ、午後でもいいよ」
「いや、今見てくれると助かる」
「分かった」
そう言って、涼は自然に資料を受け取った。
昼休みは削れていく。
涼は気にしていない顔をしている。
たぶん、本当に気にしていない。
食べることが後回しになるのが、涼の中では大したことではないのだろう。
政輝は廊下を歩きながら、袋を持ち直した。
涼の横を通り過ぎる。
目は合わせない。
声も大きくしない。
すれ違いざまに、小さく言った。
「裏」
それだけだった。
涼は返事をしなかった。
資料を見ている顔のまま、ほんの一瞬だけ瞬きをする。
それで通じた。
政輝はそのまま歩いていく。
しばらくして、涼が生徒へ柔らかく言った。
「ごめん、少し席を外すね。これは午後に戻すよ」
「うん、ありがとう」
「大丈夫」
涼は外向きの顔のまま、廊下を歩き出した。
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