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第一章 高等部 7話 嫉妬3
しばらくして、足音が近づいた。
涼は顔を上げない。
誰かは分かっていた。
「珍しいな」
政輝の声だった。
涼は煙草を持ったまま答える。
「悪いか」
「別に。悪いとは言ってねぇ」
「そうか」
「あぁ」
政輝は隣に来た。
近すぎない。
けれど、すぐ届く距離。
「何してんだ」
「…休憩」
「嘘」
涼は少しだけ目を細めた。
「お前、最近そればかりだな」
「お前が嘘ばっか言うからだろ」
「嘘は言ってない」
「そうかよ」
涼は返事をしない。
煙草を吸う。
政輝はその横顔を見る。
外では絶対に見せない顔だった。
いつもの涼より、少しだけ荒い。
静かな目元に、うまく処理できなかったものが残っている。
政輝は息を吐いた。
「資料」
「置いてきた」
「へぇ。会長様でも資料見ないことあるんだな」
「馬鹿にしてるのか」
「いや。お前が資料が大好きなのは事実」
「お前…」
「冗談」
涼が舌打ちをする。
「趣味の悪い冗談だな」
「悪かった」
政輝は涼を見る。
「で?」
「何が」
「何怒ってんだ」
「怒ってない」
「嘘」
涼は黙った。
煙草の灰が少し伸びる。
政輝はそれを見て、携帯灰皿を出した。
涼は何も言わずに灰を落とす。
その仕草だけは、やけに素直だった。
「楽しそうだったな」
涼が言った。
声は低かった。
政輝は一瞬だけ黙る。
「何が」
「分からないならいい」
「何の話だ」
「なんでもない」
涼は眉間に皺を寄せて、煙草を口元へ戻す。
政輝はその横顔を見る。
ああ、と思った。
それ以上は言葉にしない。
嫉妬か、とふと思う。
涼はたまにこうした行動を取ることがある。
最初は違和感だったその行動も、何度か重なればすぐにわかるようになった。
そしてその理由も。少しだけ、理解できる。
けれど政輝は何も言わなかった。
たぶん、それを言えば涼は余計に黙る。
そしてまだ涼自身が、自分の感情をまだそういう名前で扱っていないから。
だから。
政輝は壁に背を預けた。
「戻らないのか」
涼が聞いた。
「だりぃ」
「さっきは楽しそうだった」
「別に」
「別にってなんだ」
「そのまんまの意味」
涼は黙った。
政輝を睨むように一瞥する。
政輝は煙草を一本取り出した。
火はつけない。
指で転がすだけだった。
「戻ればいいだろ」
涼が言う。
「どこに」
「さっきのところ」
「なんで」
「楽しそうだっただろ」
「面倒だった」
「笑ってたくせに」
「あー…」
涼の目が少しだけ鋭くなる。
「適当に流すな」
「じゃあ、どう言えば伝わる」
涼は答えなかった。
答えられないのだと、政輝には分かった。
言葉にしたら、涼自身が困る。
だから言わない。
言わないのではなく、言えない。
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