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第一章 高等部 9話 はじめて遊ぶ日3
また別の日。
朝から雨が降っていた。
校庭が使えないので、昼休みの教室はいつもよりうるさかった。
男子たちが机の間で消しゴムを弾いて遊び、女子たちは後ろのロッカーの前で話している。
光出は飼育棚の前にいた。
ウサギは雨の日でもあまり関係なく、干し草を食べている。亀は水槽の端でじっとしていた。
光出はそれを見ていた。
今日は、昨日よりは普通に見えた。
少なくとも朝の返事は遅くなかった。
でも、給食の時間になってから、少しだけ違った。
前に苦手だと言っていたはずのメニューの日だった。
政輝はそれを覚えていた。
前に誰かが「涼くん、今日食べるの遅いね」と言っていて、光出がしばらくしてから「んー、ちょっと苦手かも」と答えていたから。
今日は、減りが遅い。
残しているわけではない。
ただ、少しずつ食べている。
「涼、今日遅い」
友達が言った。
「そうかな」
「昨日も家の先生?」
「うん。あと少しだけ」
「また?」
「うん」
「大変じゃん」
「そうかな」
光出は笑った。
政輝は自分の給食を食べながら聞いていた。
そうかな。
光出は、よくそう言う。
多分、本当にそう思っているのだろう。
大変かどうかを決める前に、それが自分の普通になっている。
食べ終わりの時間が近づいても、光出の皿にはまだ少し残っていた。
無理して食べているようには見えない。
でも、食べる速度が遅い。それに、いつもより表情に覇気がない。
昼休みが短くなる。
このままだと、友達に誘われたら、無理に食べきってすぐ外へ行く。
休まない。
政輝は自分の皿を見た。
もう食べ終わっている。
少し考える。
それから立って、光出の席の前へ行った。
「光出」
「うん?」
「それ、食わないなら寄越せ」
光出は少し驚いた顔をした。
「え」
「それ」
「好きなの?」
「別に」
「じゃあなんで」
「足りねぇ」
嘘だった。
普通に足りていた。
光出は一瞬考えてから、皿を少しだけ寄せた。
「少しだけなら」
「全部でいい」
「全部は久遠くんには多いんじゃないかな」
「じゃあ半分」
「わかった」
光出は少し笑って、残っていた分の半分を政輝の皿に移した。
「ありがとう」
「俺が食うんだから、礼言うのおかしくねぇ?」
「でも、助かったから」
政輝は返事をしなかった。
席に戻って、それを食べた。
味は普通だった。
別に好きでも嫌いでもない。
でも光出は、少しだけ早く食べ終わった。
食器を片付けて、水を飲んで、椅子に座ったまま少しだけ息を吐く。
本当に、少しだけ。
その顔はさっきより少し楽そうだった。
周りは誰も見ていない。
政輝だけが見ていた。
光出はすぐに友達に呼ばれた。
「涼、図書室行こう」
「うん」
そう答えて立ち上がる。
政輝は、食べ終わった皿を持ちながら思った。
休めばいいのに。
でも、光出は行った。
図書室なら、外よりはましか。
そう思った自分に、少しだけ変な気持ちになった。
自分は何を気にしているのだろう。
何を食べたか。
どれくらい残したか。
どこへ行くか。
そんなもの、自分には関係ない。
関係ないはずだった。
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