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二度目

それから現場へ戻ると、誰に渡すかもわからないままの花束をスタッフへと渡した。 「ありがとうございます」 そう言って受け取られた花束が最終的に誰の手に渡ったのかはわからないままだった。 正直そこまで興味もないけれど。 それでも助手席に置いたままの黄色い蓮だけは、なぜか捨てる気にはなれなかった。 信号待ちの度に視界へ入るそれを見ながら、休養なんて随分と皮肉な花をもらったなと思う。 今日も朝から走り回って、明日もまた朝が早い。 そんな生活を何年も続けているのだから今更だとも思う。 家へ帰ると引き出しの中を探ってみる。 もちろん花瓶なんてものは家にはない。 だから代わりになりそうなコップへとりあえず黄色い蓮を挿してみた。 似合わないなと思う。 無機質なデスクの上に花なんて今まで置いたこともない。 「綺麗だなあ」 デスクの上の黄色い蓮を見ながら呟く。 花のことなんて分からない。 それでも綺麗だと思った。 それが花なのか、色なのか、それともあの店員が選んだからなのかはわからないけれど。 それから一週間が経った。 デスクの上に置いていた蓮は少しずつ元気をなくしていた。 花びらの先は少しだけ色が抜けているし、最初みたいな張りもない。 こういうものなのか、それとも世話の仕方が悪かったのか。 なんなとくこのまま枯らしてしまうのは嫌だった。 調べればでてくるかもしれないと、スマートフォンへと手を伸ばした。 けれど気付けば検索欄で調べたのは枯れそうな花の戻し方ではなく、あの花屋の名前だった。 花のことなら検索した方が早いはずなのに、営業時間を確認しているあたり答えは出ている気もする。 結局その日の仕事終わり、柊は再び車を走らせていた。 「来てしまった」 結局、車は花屋の前へ止まっていた。 黄色い蓮を大事そうに抱えながら店内へ入ると、奥で作業していた店員が顔を上げる。 一週間も経っているのだから覚えているはずがない。 そう思っていたのに、店員は柊の手元を見た途端「ああ」となにか思い出したように笑った。 「蓮、枯れちゃいました?」 「まだです」 そう言いながら差し出す。 「でもなんか弱ってて」 店員は蓮を受け取ると、しばらく様子を見ていた。 「すごい大事に育てられたんですね」 「え?」 「一週間も持ちませんから。枯れてるのがむしろ普通というか」 思わず手元の蓮を見る。 水を変えただけで特別なことなんて何もしていないし、そもそも花の育て方も知らない。 だから褒められるようなことをした覚えもなかった。 「もう生き返りませんか」 「生き返りませんよ」 あまりにもあっさりと言われる。 そういうものなのだろうとも思う反面、なんとなく残念だった。 そう思いながら、顔を上げると店員は堪えきれないように笑っている。 「変なこと言いましたか」 「いえ、真面目だなと」 そう言いながらも笑いは収まらないみたいだった。 こっちは真面目に聞いたつもりだったのに。 「普通、枯れたら新しい花を買います」 「同じのを?」 「同じのでも違うのでも」 そう言いながら店員は並んでいる花へ目を向ける。 「花なんていくらでもありますから」 それはそうだ。 実際、店には見たこともない花が沢山並んでいる。 それでも何か違う気がして、しばらく考えてから口を開いた。 「あの花は一輪しかないじゃないですか」 思ったままを口にすると、店員は少しだけ目を丸くした。 なにか変なことを言ったのだろうかと思っていると、店員はしばらく黙ったあと小さく笑う。 「そうですね」 その返事はどこか優しかった。 「同じ花は買えても、あの花はもうないですもんね」 まるで柊の言いたいことを代わりに言葉にしてくれたみたいだった。 もう生き返らない蓮を見つめると、少しだけ寂しい気持ちになる。 一週間前までは名前すら知らなかった。 それなのに捨てるのが惜しいと思ってしまうのだから不思議だった。 「じゃあ、新しいの選びます?」 顔を上げると、店員は相変わらず穏やかに笑っている。 その笑顔を見ているうちに、またここへ来てしまった理由が少しだけ分かった気がした。

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