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地方ロケ
家へ帰ると、アルストロメリアを花瓶へ移した。
ラナンキュラスはもうほとんど花弁を残していない。
役目を終えたように静かに俯いている。
代わりに飾られたアルストロメリアは瑞々しい。
――持続。
ふと花言葉を思い出す。
営業のための言葉だとしても、不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ少しだけ嬉しかった気がする。
誰にだって同じことを言うかもしれないけれど、白いデルフィニウムを受け取った澪の顔は本当に嬉しそうだったと思う。
そう考えていると、スマートフォンが震える。
仕事の連絡だった。
現実へ引き戻されたような気がして、小さく息を吐く。
明日は朝から地方ロケらしい。
送られてきたスケジュールを確認しながらソファへ腰を下ろした。
気付けば時計の針は日付を跨ごうとしている。
そろそろ寝なければならないのに、すぐには眠る気になれなかった。
翌朝。
いつものように朝一番、顔を洗う。
その次にトイレを済ませると、朝食を済ませて歯を磨く。
着替え終わると髪を整えて仕事へ向かう。
これが朝のルーティンだった。
それに追加されたのは花の水替えをすることだった。
「……二週間か」
花瓶へ新しい水を注ぎながら小さく呟く。
花言葉通り、しばらくは楽しめるらしい。
そう思った瞬間、ふと笑ってしまう。
まるで二週間は花屋に行かないみたいだ。
そんなことを考えながら、仕事へと向かった。
「地方ロケだー!!!!」
現場へ向かう車の中。
相変わらず騒がしい天馬の声が響く。
「食べ歩きするってさ〜」
「しってる」
「海鮮丼食べたい」
「しらない」
天馬は朝から楽しそうに笑っている。
窓の外へ視線を向けると、都会の景色はいつの間にか消えていた。
見慣れない景色。
そして地方ロケは一泊二日のため、帰るのは明日の夜になる。
そう考えた瞬間、ふとあることを思い出す。
「あ」
「どうしたんですか」
「マリア」
「マリア……?どこの女?」
天馬は不思議そうに首をかしげている。
「花だわ」
「アルストロメリアのこと言ってます?」
「それ」
一日水を替えなくても大丈夫だろうかと心配になる。
そんな柊を見て、天馬はなにか言いたげな顔をした。
「花、好きでしたっけ」
「最近、愛 でてる」
そう言うと、天馬は数秒だまった。
それから耐えきれなくなったように吹き出す。
「その表現キモ」
「愛着湧いてくるもんなんだよ」
実際、最近は水を替えるのも世話をするのも楽しいなと思う。
花によって、開花時期が違うこと。
水の量や置く場所で持ちが変わること。
なにより面白いと思うのは全ての花には花言葉があることだ。
同じ花でも色によって意味が違ったり。
誰が決めたのかは知らないけれど。
その意味を聞くのは嫌いじゃなかった。
「意外」
天馬がぽつりと呟いた。
「なにが」
「西条さんがそんな話するの」
自分でもそう思う。
天馬のプライベートの話を聞くことはあっても、自分のプライベートの話はしたことがない。
だから天馬にそう言われて、自分でも驚いた。
「誰きっかけ?」
不意の質問に思わず眉を寄せる。
天馬はなにかを見透かしたように聞いてくる。
「なにが」
「花、好きになったきっかけ作ったのだれ」
そう言われて考える。
花とは無縁の生活だと思っていたのに、気付けば花がある生活が当たり前になっていた。
花に愛着なんて湧いて。
誰と聞かれても答えはひとつしかなかった。
「澪」
むしろそれ以外思いつかなかった。
天馬は一瞬だけ目を瞬く。
それからなにか言いたげに口を開きかけて、結局閉じた。
「ほーん」
珍しくそれ以上はなにも言わない。
その反応の方が逆に落ち着かなかった。
そんなことを考えていると、いつの間にか現場へと到着していた。
車を降りると、すでに撮影スタッフたちが慌ただしく動いている。
地方の商店街。
平日だというのに人通りは多かった。
「西条さーん!天馬くーん!」
スタッフに呼ばれ、二人は足を向ける。
今日の仕事は食べ歩きロケなので、そこまで難しい仕事ではない。
――だからこそ油断していた。
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