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地方ロケ②

「うっめー!!!」 カメラの前で天馬が大袈裟な声を上げる。 カメラマンが笑いながらその様子を撮影していた。 地方ロケは順調だった。 食べて。 歩いて。 紹介して。 いつの間にか人集りもできていて、改めて天馬の影響力はすごいなと思った。 気付けば撮影も終盤へと差し掛かっている。 「次ここお願いしまーす」 スタッフに呼ばれ、台本へ視線を落とした時だった。 不意に花の香りが鼻を掠める。 視線の先にあったのは小さな花屋だった。 店先には色とりどりの花が並んでいる。 けれど、見たことの無い花はほとんどなかった。 澪の店ならきっともっと知らない花が並んでいる。 そんなことを思った。 「あ」 いつの間にか隣へ来ていた天馬が花屋を見た。 「後で一緒に行きますか」 「ここじゃない」 そう即答すると天馬は吹き出す。 「澪ちゃんすげー」 「は?」 眉を寄せると、天馬は柊の肩をぽんと叩いた。 「あと、澪は男だから」 吐き捨てるように言うと天馬は目を丸くする。 「フラワーデザイナーの人でしょ?たまに来てくれる。ここの業界の人なら大体知ってるでしょ」 その言葉に思わず目を瞬かせる。 フラワーデザイナーだということを最近知ったのは自分だけだったみたいだ。 「有名なの」 「逆に知らない方がびっくりですけど」 天馬は呆れたように笑った。 自分がどれほど今まで人に興味がなかったのかということを思い知らされる。 共演者やスタッフ達の名前は覚える。 けれどそれは仕事だからであって、プライベートとなったら話は別だ。 澪のことになったら知りたいと思ってしまう自分がいることに違和感を覚えた。 「天馬さーん!お願いしまーす!」 スタッフに呼ばれ、天馬は軽く手を上げる。 さっきの話なんてなかったかのように笑顔を浮かべながら走っていった。 柊も切り替えようと台本へ視線を落とす。 けれど、ふとポケットの中のスマートフォンが気になった。 ――アルストロメリア。 一日くらいなら問題ないだろうけれど、一応連絡してみようと思った。 「おつかれさまでしたー」 スタッフの声で一斉にあちこちから気の抜けた声が聞こえてくる。 気付けば外はもう暗くなっていて、想像以上に撮影が押していたのがわかる。 軽く肩を回しながら、腕時計へと視線を落とす。 十九時過ぎ。終了予定時刻より二時間も過ぎていた。 予約しているホテルへ行くため天馬を探していると、スマートフォンが震えた。 <ごめ!女の子と遊んでくる♡> 天馬だった。 スキャンダルを出されるとこちらまで困るので、あまり派手なことはしないでほしいと思う。 けれど今さら言ったところで聞くような男でもない。 <日が回るまでには帰ってこい。迎えに行く> 案の定、既読だけついて返信はこなかった。 いつものことだと深いため息をついて、柊はホテルへと向かった。 部屋へ入るとようやく肩の力が抜ける。 スーツを脱ぎ捨て、ベッドへ腰を下ろした。 静かすぎる部屋が妙に落ち着かなくて、スマートフォンを取り出す。 「あ」 なにかを思い出したように画面を開くと、澪へメッセージを打ち込む。 <アルストロメリアって一日くらい水替えしなくても大丈夫ですか> すると返信はすぐに来る。 <なんで?> <地方ロケに来てるので> <じゃあ、許しましょう> 思わず吹き出した。 不思議と今日の疲れを忘れた気がした。 <誰目線> <俺目線です> 返そうと思えば返せるのに、その一文を読み返しているうちに口元が緩んでいくのがわかった。 結局、返信はしなかった。 返信してしまえば、この心地良さが終わってしまう気がした。 そのままそっとスマートフォンを伏せると、風呂へと向かう。 シャワーを浴びている間も、頭に浮かぶのは仕事のことではない。 ――俺目線です たったそれだけの言葉だった。 「玄関にも花、飾ろうかな」 この地方ロケが終わったら花を買いに行こう。 そう思った。

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