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確信

あれから二週間が経った。 デスクの上に置いてあるアルストロメリアは元気をなくし、玄関に飾ってある芍薬も花びらが全て散っていた。 天馬の主演ドラマが始まったため、花屋へ行く機会がなくなった。 朝から深夜まで続く撮影。 家へ帰れば寝るだけの日々だ。 花の水を替えるのが精一杯だった。 情報解禁されているのは、人気のBL漫画が実写化されるという事実だけだ。 主演も。 キャストも。 まだ一切発表されていない。 それなのにSNSでは毎日のように予想合戦が繰り広げられていた。 根拠のない情報ばかりだというのに、なぜ天馬の名前だけは何度も見かける。 どこから漏れたのかは分からない。 けれど、その噂のおかげで撮影現場には出待ちまで現れるようになっていた。 当人は呑気なものだけれど。 「俺人気者〜」 「迷惑極まりない!」 「ひど〜」 天馬は笑いながらスマートフォンを掲げる。 画面には【主演・天馬説】と書かれた記事が表示されていた。 「ああ、とうとう撮影始まっちゃったかあ」 「受け」 「……え?バカにしてる???」 柊は返事をしなかった。 それが答えだったらしい。 天馬の不満そうな声を背中で聞きながら現場へと向かった。 現場へとつくと、さっそく二話の撮影が始まる。 一話とは違い、今日は二人のシーンが多いらしい。 休憩中にスタッフたちが原作の話で盛り上がっているのを聞いた。 どうやら二話目から読者が増えたみたいだった。 「スタンバイお願いしまーす」 スタッフの声が飛ぶ。 天馬は台本を閉じると、軽く肩を回しながら立ち上がった。 所定の位置へ移動すると、スタッフ達が最終確認を行う。 「よーい」 監督の声が響くと現場は一気に静かになった。 「好きってどう思ったら好きだと思う?」 天馬が相手役へ声を掛ける。 「何もない時間に思い出すなら好きなんじゃない?」 撮影が始まる前にちらっと見た台本のセリフ。 あの時もこの言葉が妙に頭に残ったのを思い出す。 実際、目の前でそのセリフを聞くと尚更だった。 「カットー!」 監督の声で我に返る。 スタッフ達は慌ただしく動き始めているのに、自分だけが少し取り残されたような気がした。 「西条さん」 不意に呼ばれて顔を上げる。 制作スタッフが困ったような顔をしていた。 「次のシーンで使う花なんですけど」 「花?」 「恋愛を自覚するシーンで、花に囲まれた幻想的なセットを作る予定だったんです」 どうやら装花担当のデザイナーが急遽来られなくなったらしい。 「監督がどうしてもやりたいって。心象風景みたいな感じとかなんとか」 スタッフは困ったように頭を搔く。 「俺に言われても」 現場は騒然としていた。 けれど次の瞬間、ふとひとりの顔が浮かんだ。 柊はスマートフォンを取り出すと、ある人物へと電話を掛ける。 ワンコールですぐに出た。 『はい』 聞き慣れた声だった。 『仕事中?』 『今は大丈夫ですよ』 相変わらず落ち着いた声に、なぜか少しだけ肩の力が抜けた。 『最近、来てくれませんけど急になんですか』 軽い口調だった。 けれど少しだけ拗ねているようにも聞こえる。 『すみません。忙しくて』 『へぇ、ところで用件は』 全く許していない声だった。 『花』 『花』 『頼みたい仕事がある』 数秒の沈黙。 それから電話の向こうで小さく笑う声がした。 『仕事とは』 返ってきたのは楽しそうな声だった。 さっきまでの拗ねたような空気はどこにもない。 『恋愛を自覚するシーンで花を使いたいらしい』 『へぇ』 『心象風景とかなんとか』 『面白そうですね』 電話の向こうで、なにかを書き留める音がした。 どうやら引受けてくれるみたいだ。 『撮影場所送ってください。すぐ向かいます』 澪はそう言うと、こっちの話も聞かず通話を切った。 顔を上げると、現場は相変わらず騒がしかった。 「……なんとかなりそうですか」 不安そうにしていたスタッフへ頷く。 「余裕で」 澪なら想像以上のものを作り上げてくれるだろうという確信があった。

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