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10 -04※
めっきり春らしく暖かい日が続きますね、なんて会話をメイドとしたのは、昨日のこと。
彼女は「冬場こそ部屋へ入れる湯を使う直前に煮立てて用意していたが、この頃はそれほどすぐに冷めてしまうこともない」といったことを、ゆったりとした口調で話してくれた。だから、使う頃にちょうど良い温度まで下がっているように、最近は早めに部屋へ湯を置くようにしているのだと。
その細やかな気遣いを、こういう形で感謝することになるとは思わなかった。
「花の香りがする。王都にはない花だな。この街にはよくある花か?」
「ん……ん、」
俺の体に石鹸の泡を塗り広げながら、シルヴァンが問い掛ける。大きな手のひらでくまなく肌を辿るのと同時に、質問を終えたばかりの唇はすぐにキスをしてきて、つまり俺には、喋る隙もないのだ。
「シルヴァ……ンが、朗読会をする修道院で……作ってる、石鹸……。花の、なまえは、」
言葉を紡ぐために翻した舌先すらちゅうと吸われて、俺は背筋を震わせる。
廊下での深すぎるキスで互いに完全にスイッチが入ってしまい、俺はシルヴァンを迎え入れた自室の扉にがっつりと内鍵を掛けたわけだが、「ベッドへ行く前に体を洗わせてくれ」と懇願したところ、「なら手伝う」と王子様もいっしょに湯の場へ押し入って来たのだった。なら手伝うってなんだ。
二人での入浴はいきなりハードルが高すぎないか、とまっとうに戸惑う余裕など、俺には与えられなかった。
服を脱ぐのも、石鹸を使うのも、こっそり済ませるはずだった後孔のあれこれまで、シルヴァンはその広い胸板に俺をぴったりとくっつけさせたまま、ひどく器用に動く二つの手を駆使して完遂したのである。
羞恥もなにも、片時も離れようとしないシルヴァンの体温と降り積もるキスが心地良すぎて、俺はもはやよくわからない。
「もう、……邪魔」
「邪魔? 俺はずいぶん辛抱強く、根気よく、大人しく待ってる」
「んんん」
抗議した唇の先を、小さく甘噛みされる。俺は間近にある漆黒の髪の中へと指先を差し入れて、焦れに焦れた苛立ち混じりのキスを受け止めた。
お互いの体をタオルでざっと拭くことまでこなしたシルヴァンは、「もういいだろう」と俺を抱き上げると、まっすぐにベッドへ向かう。
「リオン」
「は……、ん、んっ」
ちょっとくらいは強引にされるのでは、と頭の隅で思っていた俺の予測とは裏腹に、シルヴァンはこちらがじれったくなるくらい丁寧に、じっくりと、俺とのキスを結ぶ。
触れ合わせすぎてもう感触も曖昧なのに、それでも俺は、シルヴァンの舌が持つ滑らかな熱を悦んで吸い上げた。
夢中になって互いの舌をじゅぷじゅぷと絡め合わせると、口の端から唾液がとろりと滴る。あまりにも即物的なはしたなさに、脳が焼けるようだ。
「リオン……、おまえを、咎めるつもりはないが」
息を上げながら、シルヴァンが言う。いつだって凜々しい眉根をぎゅっと寄せて、どこか苦しそうに、俺を見つめた。「ここが」と続けながら、彼の指先は俺の後ろを探る。
久しく感じていない骨張った太い指を捩じ込まれて、俺は腰を震わせた。
「ん、ぁ」
「柔らかすぎて、不安になる……」
「ん……っ」
あ、あ、だめ。だめだ。
ずっと夢想していた、シルヴァンの指の感触。それがいま、俺の中にある。俺自身の指とは違う形。長さ。堅い皮膚。その一つ一つを感じ取って、俺の性感はぶわわっと大きく波打った。血の気が引いたかと錯覚するくらいに、悦い。
「あっ、ん、ん、……っ」
「リオン」
切実に問い掛けてくるシルヴァンの眼差しを受けながら、俺は背を反らした。自分の内側が、ぎゅうぎゅうにシルヴァンの指を締め付けているのがわかる。恥ずかしい。でも、抑えようがない。
「あ、あ、だ、……って」
だって、この体を作り変えたのは、シルヴァンじゃないか。
たった一度、あの夜に。
「シルヴァ、シルヴァンが、俺に、……っ指を、教えて、だから、入れないと、足らな……っ。……お、俺の指、あんまり気持ち良くないけど、けど、これしか、ないじゃん……っ」
「――自分の指で、慰めていたのか」
「ほかに、ほかに、なにが、あんの……っや、あ、あ、さわ、さわって、そこ」
「リオン」
「あっあ、あああっ」
深くまで埋まった指の腹に、快感の芽を強くぐうっと押されて、俺は体を跳ねさせる。少しももったいぶらず、そこをぐりぐりと愛撫しながら、シルヴァンはまたキスをしてきた。
俺の呼吸は奪われる。まるで、喰われるようなキスだ。
舌先を解けばシルヴァンの荒い呼気が唇に掛かって、それはきっと俺も同じで、どうしなくても、二人の体の熱が上がってゆく。
「あ、あ、あ」
もしかしたらあの夜よりもぐしょぐしょに濡れているかもしれないシルヴァンの熱塊は、俺のひくつく入り口にねっとりと馴染んで、少しずつ、その口を広げさせた。
「ああっ」
そんなに開くのかと戸惑う間もなく、ずるりと内側に飲み込まれる。――挿入 ってる。
もちろん視覚から得られる刺激もそうとうなものだが、それ以上に、俺の内襞に焼きごてを押し付けるようなシルヴァンの熱が、ひどく悦い。あまりにも熱くて、重たく、硬くて、興奮する。怖い。気持ちいい。俺の中はいま、体も感情も、ぜんぶぐちゃぐちゃだ。
「ひぅ、ぁっあ、ぁ、ああ……っ」
俺は泣き出すみたいな声を洩らしながら、自分の脚の間に迎え入れたシルヴァンの腰をじっくりと凝視する。視界を確保するために、両方の手を伸ばして彼の肩に添えた。全身がびりびりと痺れるように気持ち良くて、そこに縋ったりするような力までは出せない。
「リオン。あまり、見るな」
「あ、あ……ぜんぶ、きちゃう……っあ、すごい」
「っ」
「すご、く、深……あっあ、やああっ」
シルヴァンの下生えが俺の肌に触れるまでは見守れず、俺は覆い被さってきた大きな体躯に揺さぶり上げられる。いまさっきつぶさに見つめた大きくて長いものが、その形が、俺の中をぐんぐんと突き上げた。何度も何度も俺の入り口を通って、出入りする。
まだ不慣れな内襞を、思うさまに愛され、なぶられて、俺の腰はいっそ砕かれたみたいに力なく震えた。それが途方もなく淫らで、気持ち良くて、堪らない。
(シルヴァン)
さんざんに喘がされ、お互いに一度精を吐き出した後で、俺はひどく重たく感じられる両腕を伸ばした。自分の心臓の真上に、シルヴァンの頭を抱き寄せる。だいぶ乱れ切ってもちゃもちゃになっている漆黒の髪を、両手で丁寧に撫でた。
(ああ)
どこにどうやって触れても、シルヴァンという男は心地が良い。
だが俺がそうすることで、彼の動きはやや制限されてしまうらしい。俺の内側に砲身を埋めたままのシルヴァンはむずがるように頭を振ろうとしかけて、ふとそれを止めた。彼が思い直す瞬間を見て取った俺は、ちょっとだけ笑う。
「……リオン」
俺の胸元に大人しく頭を寄せ直すと、シルヴァンは光と熱の混じった緑瞳だけを上げる。……うお。この上目遣いは、はちゃめちゃに可愛いかもしれない。
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