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第7話

「夏目くん、骨が邪魔だよ」 「味はお好みでしょう」 「夏目くんが煮た魚は美味しいよ。 美味しいけど…」 もごもごと文句を言いながら雑穀米を口に運ぶ先生好みの味付けで煮たから文句は言えないらしい。 冷凍のカレイを甘辛く煮付けたが、先生が特に好むのはたまご。 口の中でホロホロとほどけていくのが好きらしい。 たまごだけを沢山食べたいと言われたこともあるが、コレステロールが心配だと言いくるめた。 病院食になればおやつも制限がかかるぞ、と。 そういうところでは先生は言葉を武器にしない。 素直なんだか、大人なんだか。 「なんで魚は骨があるんだろうね」 「魚類の資料用意しますか?」 「行間が読めない子だね」 「読めてるから話をズラしたんでしょうが」 落ち込んでたって腹は減る。 今日は仕事で沢山本を移動させたから尚更だ。 食って、書いて、寝て、それから仕事して。 そうやって生きるしか生き方を知らない癖にうじうじと悩んでばかりはいられない。 「夏目くん、来週はハンバーグが良い。 チーズの入ったやつだよ」 「市販のですか?」 「君は本当に行間が読めないのかい?」 「はて、なんのことでしょうか」 いつも言われていることを返すと、先生はじっと見詰めながら漬け物を口にした。 チマチマと骨を避けながら実を拾うために背中を丸めている先生。 パソコンに向かっている時より背中が小さく見える。 骨くらいとるのを手伝っても良いが、甘やかすばかりも良くない。 気にしないふりをして自分の分の魚を口に運ぶ。 そして、ふと思い出した。 「あ、そうだ。 来月のサイン会、落選しました」 「え? サイン会?」 「はい」 「ふーん。 誰のだい?」 「先生の」 「俺のサインが欲しいのかい…?」 「そりゃ、欲しいですよ。 今更ですか?」 ファンと言っても熱狂的なファンではないと思う。 新刊は初版で揃えたい、新刊は初日に買いたい、くらいだ。 あと、インタビュー記事も読みたい。 それから、コラムも読みたい。 それくらいだ。 ただ、県外でのサイン会となれば旅行を兼ねることが出来るのがワクワクする。 だから申し込んだのだが、生憎の結果だ。 だが、書店の事情も重々理解しているので致し方ない。 「名前を書くだけだよ?」 「そんなロマンのない言い方…。 先生は自分が作家の自覚はあるんですよね?」 「そりゃ、勿論。 俺みたいなのが社会で働けると思うかい?」 思わない。 口にはしないが、この人が社会人として動いている姿は想像が難しい。 別にパソコンだって使えているし、メールが出来ないとか、世間知らずだという訳でもない。 ただ、とんでもなく人間としての能力に偏りがある。 「欲しいなら今書こうか。 新刊が良いのかい?」 「あのなぁ…。 サイン会で貰うから嬉しいんでしょうが」 「あ、サインならあれがしてみたいね。 ほらスポーツ選手がカメラに書くやつ」 「野球とかテニスとかの?」 頷きながら味噌汁を啜り、「美味いねぇ」と溢した。 「それ、サイン会じゃなくなってるじゃないですか」 「同じ署名だろ? なにが違うんだい」 「判子と署名くらい違います」 「難しいねぇ。 味噌汁はまだあるかな?」 「ありますよ。 ほんと、マイペースですね」 「なんで他人のペースで生きないといけないんだい? 俺の人生だろう」

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