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第8話

「先生、風呂沸いてから何分経ちましたか」 「ちょっと難しい問いだね」 「風呂入れって言ってんですよ」 「おや、口が悪いね」 舌打ちしたくなるのをグッと堪え、洗い物をする手を動かす。 普段は紙コップの生活でも、俺がいる時だけ──こうしてすぐに洗い物をするから食器を使っている。 こんなものはサッサと洗って片付けてしまえばすぐに終わる。 だけど先生はしない。 優先順位がそこではないから。 「風呂キャンなんて、体の良い逃げ言葉でしかないんですからね」 「なんでそれを小説に生かさないのかね」 「なにか言いましたか?」 先生はキャスターチェアに乗ったままズリズリと風呂場へと向かう。 なんで、あぁもシオシオした顔をするのか。 締め切り前は進んで風呂に入るくせに。 最後のグラスを濯ぎきると、それをタオルで拭き定位置へと戻していく。 その頃になると、漸くシャワーの音が聞こえてきた。 それまでなにをしていたかなんて考えたって無駄だ。 なにもしていないのだから。 ついでにと紙コップを補充して、家事を終えた。 それから漸く自分の時間。 語感は良い、か いつも語感は褒めてくれるんだよな お世辞…ってことではないから喜べば良いのに… あの先生がお世辞を言う筈がない。 言ったところで、僅かにでも先生の得にならない。 だから、信じて良いと思う。 思う……、けど……。 誰のため……か 言われたことを思い出しながらメモを書き込んでいく。 自分を信じきれないのが俺の一番の悪癖なんだろう。

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