7 / 39

第7話

先生はまたキャスターをゴロゴロ鳴らしながら移動する。 猫よりマイペースだ。 だけど、今はそれがむしろ有り難い。 膝を抱えて頭の中でぐちゃぐちゃな言葉を並べていく。 マイペースは強みだ。 社会人として壊滅的でも、この世界では唯一無二をつくりだす。 それが色になれば長所でしかない。 先生を見て学んだはずなのに… 違う、“はず”は学べてないんだ 学べていれば使えるはず それが生かせなかった時点で血肉に出来なかったんだ… 分かった“ふり”でしない ビニルの破れる音が聞こえても頭を上げられない。 お菓子でも食べるんだろう。 せめて、ゴミ箱を指差したが、先生は見てくれているだろうか。 「今日はハヤシライスが食べたいね」 いつもとなんらかわらない先生の声が部屋に響いた。 「今日は煮魚です」 「骨がめんどくさいよ」 「子供みたいなことを言わないでください。 いくつですか」 「はて、いくつになったんだったかな」 顎をつく手に完全に体重を預けると、うーんと目を閉じた。 いつもこれだ。 30過ぎてから歳が覚えられないんだよねぇ、と何度も聞いてきた。 職場の先輩に聞いたら、年齢なんてそんなもんだと言われたが、それにしたって…。 「平成元年生まれでしょ」 「今は令和だからね。 計算が難しいよ」 「31年と令和1年が同じなんですから、そのままでしょ…」 「なら、今年は……令和7年だから…37だね」 「……38だろ。 誕生日前だから37歳です。 あと、今年は令和8年」 やっぱり残酷だ。 残酷だけど、たまらなく愛おしい。 これが俺の愛した文学の世界。

ともだちにシェアしよう!