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第10話
先生の新刊が発売されると、書店も僅かに賑わう。
今はネットで注文すれば自宅に宅配される。
電子書籍だってある。
部屋から出ずともいいのだから天気にさえ左右されることもない。
その利便性にはどうやっても勝てないが、本屋に本を買いに来る楽しみ方をしてくれている人も確かにいる。
そして、今日は先生のファンがそうだ。
多くの人がワクワクを買いに来ている。
嬉しそうな顔でレジカウンターに本を置く人たち。
この人たちは、先生があんなに駄目人間なのを知らないんだと思うと不思議だ。
自分だけが知っている先生。
「夏目くん」
そう、こういう間の抜けた声で呼ぶん……
「夏目くん」
「は?
なにしに来て…」
「散歩だよ。
俺の本はうれっ」
「あんた、バレたらどうすんだよ」
「なにがだい?」
「顔だよ。
近影出てんだろ」
全然似ても似つかわしくないけど。
散歩というのもあながち嘘ではないらしくいつもと変わらない格好だ。
唯一の違いといえば歩いていることくらいだ。
有名人はイメージを壊さないことも仕事だと思う。
先生の場合は、オフの全てが想像や近影とはかけ離れすぎている。
「あぁ、手に取ってくれる人がいるんだね」
先生の視線の先には、平置きされたハードカバーを手にレジへと並ぶ女性客。
視線を先生へと戻して驚いた。
……俺の知らない先生だ
やわらかく弧を描いた口元に妙な気持ちが湧き出てきた。
なんだかモヤモヤする。
「見たかい?
あの人がうちの家賃を払ってくれる人だよ」
「言い方に気を付けてください…」
ん?
なんでモヤモヤするんだ…?
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