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第12話

新刊が発売されて暫く経った頃、先生はスーツに身を包み新幹線に押し込まれサイン会へと運ばれていった。 やっぱり行きたかった気持ちもあるが、見本誌を本人の前で読むという贅沢をさせてもらったのでその気持ちを宥めることが出来るだけ。 贅沢な経験ではあったが、作家としての先生からサインをもらうこともまた違った贅沢。 次こそは当選して、名前入りでサインをもらいたい。 お土産はなにがいい?と言われたので、気になっていた物や、定番の物をいくつか共有しておいたが大丈夫だろうか。 『夏目くんが言ってたやつだね。 あ、こっちも美味しそうだね。 こっちも』 想像出来る先生はこれだ。 お金を持った子供だ。 そちらの方が心配だ。 編集の佐伯さんも同行してるし、先生はそこまでの心配ではない。 心配なのはむしろ佐伯さんかもしれない。 あのマイペースぶりに1日付き合うんだから。 あれも食べたい、これも食べたい、歩けない、とごねていないか。 どんな顔してサイン書いてんのかな 椅子に座ったままなのはいつものことだ。 キャニスターのついてない椅子に座って、ズリズリと動いたりしてないだろうか。 用意された昼飯に魚が入っていて、骨が~なんて子供みたいに言ってないか。 仕事中なのに、そんな心配ばかりが頭に浮かぶ。 あの人、全てが極端だからな… 『夏目くん、お土産だよ。 ほら、酒』 ずらりと酒を並べて、子供みたいな顔で嬉しそうにするのも想像出来る。 ちょっと良いグラス、買っといてもいいかもな 頑張ってるんだから、美味しく飲める場所くらいは用意しておきたい。

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