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第17話

若者が、もうすぐ初老の年齢の人を蹴飛ばした。 そう考えると罪悪感がすごい。 38歳なんて全然若いが、若いから蹴って大丈夫な理由にもならない。 時間が経てば経つほど、痛みより怒りよりも罪悪感が沸いていく。 やわらかかった気がする… 脇腹…、だったらやばいよな… けど、先に手を──歯だけど──を出したのは先生だ。 先生が……悪い…、のか……? いや、相手が悪いからって暴力を返すのは平和ではない。 最初から平和じゃなかったのに平和の話なのか…? 思いっきり噛み付いてきて、歯型が残っている。 お陰で首元のきっちり隠れるインナーを着込む羽目になった。 そう思うと罪悪感よりムカつきが勝つ気もする。 けど、やっぱり罪悪感は無視出来ない。 この辺だったか…?と自分の腹を触っていると休憩室のドアが開く音がした。 「夏目くん、おはよう。 お腹痛い……どうしたの、その顔」 パートのおばさんは顔を見てギョっと驚いてみせた。 そんなに酷いだろうか。 マスクで隠した方がいいなら休憩中に近くのコンビニまで行かなければ。 ついでになんかエネルギーになるやつぶちこんでおこう。 そうでなくても今日は使い物にならなそうなんだから、せめてエネルギー切れは避けたい。 「ちょっと、知人と喧嘩…?してしまって」 「あら、夏目くんでも喧嘩するのね」 「喧嘩…は、ちょっと違うかも…ですけど…。 そんな対等じゃないし……」 先生と俺の関係ってなんなんだろう。 ハウスキーパーの真似事と、小説の添削やアドバイスをもらって、たまに一緒に飯を食って。 友達じゃない。 だからって、上司と部下でもない。 対等かと言われれば対等なようでそうでもない。 名前さえない関係。 きっとそれがお似合いだ。 溜め息が出そうなのを我慢するとパートのおばさんはポンと肩を叩き、それから擦った。 「反省してるんでしょ」 「…はい」 「けど、頭は冷えてないってことね。 みんなそんなもんよ。 私だって旦那と喧嘩すれば、なんでこんなのと結婚したんだろうって思うし。 けど、頭の芯まで怒りに染まったら後悔するわ。 良くないことを口に出してしまえば、音は二度と口には戻ってこないんだもの」 言葉ではなく、足が出た。 「酷いこと言ってしまったの?」 「……足が…出ました」 「夏目くんが?」 「はい…」 それは相当ね…、と言ちたが、すぐにまた力強く擦ってくれる。 「大丈夫よ。 切れる縁は切れるけど、それでも切れないものもあるもの」 そうなのだろうか。 そんなものに縋ってもいいのか。 先生との関係をそんな都合の良いように扱っていいのか分からない。 「大切にしたいなら、大切にしなきゃ。 謝れる?」 とりあえずで頷くとポケットからなにかを取り出し手に握らせてきた。 その手を開くと、小さな飴玉。 「甘いのは心にいいから。 きっと大丈夫よ」 「ありがとうございます…」 もらった飴を制服のポケットに入れバックヤードを出た。 どんな時でもお客様には関係ない。 営業用の笑顔をつくると、頭の中を勤務モードへと切り替える。 レジや品出しに手を動かしながらも頭は別のことを考えるのは得意だ。 そうやっていくつものボツを産み出してきたから。

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