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第18話

「先生」 「……なんだい。 締め切りならまだだろ」 画面から視線を外すことなく事実を伝える。 締め切りはまだまだ先だ。 担当編集者に来られたところで、すぐに書き上げられる物でもない。 そんなことは担当本人の方が重々承知だろう。 そもそも報連相はメッセージで済むはずだ。 この便利な世の中で不便なことをする理由もない。 直接この部屋に来たのはどうせ碌でもない理由だ。 「ファンレター持ってきたんですよ。 あと、サイン会でのお手紙も。 やっぱり新作出ると人気を再確認出来ますね。 ここに置いておきますよ。 あと、昨日、添削のことで夏目くんに電話したら悄気た声してましたよ。 先生を怒らせてしまった、って」 「へぇ」 「可哀想に」 「可哀想なのは俺の方だよ。 いじめられたんだ」 「喧嘩したんですか。 26歳と」 担当編集はどこか楽しそうな顔で紙コップにお茶を注いでいる。 大方自分が飲むためだ。 それを寄越した試しはない。 「喧嘩じゃない。 喧嘩は同レベル同士がするやつだろ」 「同レベルではないと?」 「五月蝿いなぁ」 本当に五月蝿い。 五月の蝿くらい鬱陶しい。 更に部屋の隅から簡易の椅子を引っ張ってくるとわざと背後を陣取った。 鬱陶しいを通り越して煩わしい。 「あぁ、38歳のおっさんでしたね」 「減らず口がすぎるよ。 親の顔が見てみたいね」 「見れば良いでしょ」 「佐伯くん、会社で嫌われてないかい?」 「生憎、愛しい妻がいるので。 誰かに嫌われようと、どうでもいいですよ」 「惚気なら金を払いなさい。 鬱陶しい」 「払ってるでしょう、原稿料」 あぁ言えばこう言う。 そもそも、原稿料を払ってるのは出版社だ。 佐伯くんじゃない。 なのに堂々と嘘を吐く。 本当にどういう教育を受けてきたのか。 「お茶」 「美味しいですよ」 「…くれと言ってるんだよ」 「ください、でしょう?」 「可愛くない子だね」 「親に伝えておきます」 本当に可愛くない子だ。

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