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第21話

鍵を差し込んで回す。 そんな日常生活の動きさえするのが億劫だ。 こんなの処刑台の上に自分で上がるようなものだ。 先生への見せしめなら、それも丁度良いのかも。 夢を断ち切るなら先生の前の方が…。 「……お邪魔します」 先生の部屋は明かりは点いているが物音がしない。 思わず足元を見ると、サンダルもスニーカーも出しっぱなしのままだ。 部屋にいると思うが…。 「先生、いますか?」 「あぁ、夏目くん」 いつもの如く椅子に座ったまま顔を出した先生は、入っていいよと目で合図した。 特にいつもとかわらない。 けど、気まずい。 分かっていて来たけど、居心地が悪い。 それでも、なにもせずお金だけをもらう方が嫌だ。 今月分は断らなければ。 「…お邪魔してます」 「あぁ、構わないよ」 声もいつもとなんらかわらない。 だけど、先生だって一応は大人だしそういう対応くらい出来るはず。 サイン会だってあんなに大人に見えたんだから。 次の言葉に迷っていると、ポンッと箱を床に投げられた。 「貼ってくれるかい?」 「…はい」 そのパッケージには湿布の文字。 考えなくても蹴ったせいだと解る。 いや、ワンチャン腰…………なんてことはないか。 ……ない。 蹴飛ばした脇腹は痣になってる。 流石に内臓は大丈夫だと思いたいが、結構な力で蹴ってしまった。 大丈夫なら大丈夫で脚力に問題が…?と思ってしまうから複雑だ。 いや、大丈夫に越したことはないが。 それは大前提だ。 「……申し訳ありませんでした」 「ん? なにがかな?」 「蹴ったの」 「あぁ、気にすることはないよ。 俺もわざと痣を見せてるからね」 「……けど、」 「夏目くんは本当に面白いね。 自分がしたことで、自分まで傷付いてるのかい?」 「……まぁ」 「馬鹿なのかい?」 「……酔っぱらいに言われたくない」 「あぁ…、痛い。 脇腹が痛むよ。 あいたたた…」 この人は…。 冷たいですよ、の言ちてから青色を覆い隠した。 完璧に隠れるわけではないが、一枚で大丈夫だと止められてしまう。 そんなわけないでしょと二枚貼り付ると大袈裟だなぁときた。 大袈裟なもんか。 こういうのは過保護にしたって困ることはない。 「ありがとう。 助かったよ」 「いえ…」 キャスターチェアに腰かけた先生と床に膝をつく俺。 顔が見れない方がまだマシだ。 お互いが同じ目線なら、どうしても先生の顔を見てしまう。 子供みたいに甘味を頬張る姿も、紙コップで飲み物を飲む姿も、この13ヵ月見てきた。 だけど、先生は文字だけで生活をしているプロ。 先生が優しいから、対等だと思い込んでしまっていた。 脇に置いていたビニール袋を目の前に差し出した。 「松福のクリーム大福です。 それと、オムレット。 良ければ召し上がってください…」 「おや、気前がいいね」 「そんな、ことは…」 「で、俺から逃げるのかい?」 平気で痛いところを突いてくる。 まどろっこしいことなんてせず、ただ真っ直ぐに。 「逃げる、なんて…」 「夏目くんは分かりやすいからね。 これも謝罪の手土産なんだろう。 宛ら、越後屋のまんじゅうってところかな? けど、夏目くんは越後屋と違って、自ら切腹するタイプだからね。 大福の下に原稿があるなんてこともないんだろ?」 「……」 大福とオムレットの詰められた箱を掲げてみせている。 そんなことしたって透視出来る訳でもないのに。 「こんなのもすぐに治るよ。 若いからね」 ……若くないくせに。 「そもそも、別に逃げることが負けだなんて思ってないよ。 それも大切な戦術だからね。 けど」 …………首を跳ねられる前はこんな気持ちなのか。 「コーヒー」 「え…?」 「松福のクリーム大福にはコーヒーだろ。 なにを呆けているんだい?」 脚の上に松福の箱を乗せ、シャーっとキャスターを転がせて横を通りすぎた。 「は……?」 「コーヒーはアイスだよ。 それと、冷蔵庫にアイスもあったね。 付けたまえ」 ポツン、と書斎に残された背中にどんどん要求が飛んでくる。 「あぁ、団子まであるじゃないか。 蹴られるものだねぇ」 「あの…」 「次はケーキも頼むよ」 ……先生は、こんなにも優しい。

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