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第26話

すぐにかけ直すと佐伯さんは困ったように先生を呼んだ。 どんな表情なのか想像がつく。 困ったような、呆れたような、けどこれが先生の通常運転だとばかりの顔。 どうか佐伯さんの胃が痛まないことを願う。 『先生…』 「画面に汚れがあって気になってしまってね。 拭いたら切れてしまったんだよ」 先生らしいというかなんというか…。 佐伯さんには申し訳ないが、大分気持ちは楽になった。 肩の力も思いっきり抜けた。 佐伯さんには本当に申し訳ないけど先生には感謝だ。 『なんかでもらったクリーナーとかクロスあるでしょ…。 使ってくださいね』 「んー」 『それより、夏目くん。 頑張ろうね』 「はい。 よろしくお願いします」 先生は椅子から手を伸ばしフロートを楽しみはじめた。 それを横目に話を進める。 『書きたいもの、書けるもの、そういうのイメージ出来る?』 「書きたいもの…」 ミステリー、一般的文芸、恋愛、青春、官能、ピカレスク。 男女バディ、同性バディ、子供と大人、高校生。 「全部です」 「ははっ、そりゃそうだ」 『だろうなとは思ったけど、本気で言うんだね』 だって、諦めたくない。 どれ一つも。 『じゃあ、聞き方をかえるよ。 削りたくないのはなに?』 「削りたくないのは…」 『台詞でも設定でもいいよ。 未発表って言ったけど、同人誌で気に入ってるシーンとかがあるならそこから膨らませてもいいし』 使いたいものはある。 けど、それを削りたくないのかと聞かれると面白くなるなら削っても良いと思えるものも多々ある。 そうやって一つひとつ篩にかけていくしかないのか。 『そうだな…。 自分が書いてて楽しいものとか。 ジャンルもすぐに決めなくてもいいっちゃいいんだけど、それだと後々自分が分からなくなるからね』 自負の話なのだろうか。 先生を一瞥すると溶けたアイスがついた唇の端をぺろっと舐めた。 先生は例外なのだろう。 きっと強く自分を持つのも才能。 俺には圧倒的に足りないものの一つ。 「難しく考えることはないよ。 夏目くんの話は夏目くんにしか書けないんだからね」 先生は上機嫌で団子を食べはじめた。 『先生は極端すぎるんですよ…。 夏目くん、あんなのお手本にしなくていいからね』 あんなのだって、とニ本目の団子を選んでいる。 それも嬉々として。 まだ一本目も食べ終わっていないのに。 甘い物になるとこれだ。 「だって、人はジャンルを読みはしないだろう? お、このあんこ美味しいねぇ」 『売る時に困るでしょう…』 確かに、どちらの言い分もその通りだ。 ジャンル買いをしても読むのは中身だ。 けど、売る時には中身で分けられる。 どちらが大切かなんて、そんな簡単な問題ではない気がする。 「団子は、あんこで売ってないぞ」 『団子は団子か和菓子でジャンル分けされてるでしょうが』 ケーキ屋に団子は並ばない。 甘味屋にケーキは並ばない。 中身があんこでも、カスタードクリームでも鯛焼きは鯛焼きならそれでいい…はずだよな。 けど、食べるなら選びたい。 「鯛焼きは…和菓子ですか…?」 『鯛焼きは鯛焼きだと思うよ』 「鯛焼きは食べたいね」

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