29 / 39
第29話
昨日──日付的には今日も遅くまで書いていたので眠い。
今日こそは外が白む前にはベッドに入ろうと思っていたのに、気が付けば新聞配達のバイクの音が聞こえていた。
慌ててふとんに潜り込んだが、身体は正直に酸素を求めくる。
「あら、大きな欠伸ね」
「あ、すみません…」
パッと口を隠してみると、ふふっと笑われる。
いつものパートさんとレジに作業をしていると、不意におばさんは近くへとやって来た。
「進んでるの?」
「ぼちぼちです」
「あらっ、いいじゃない」
休憩中もスマホに噛り付く俺を気にして野菜ジュースを分けてくれたことから、趣味で…と話したら素敵な夢ねと応援してくれている。
先生を蹴った時も飴をくれたり、すごく気にかけてくれていた。
小説を書いていると伝えた時も幼稚な夢だと笑ったりしないかった。
ただ、どんなに書くのが楽しくてもちゃんと寝て食べるのよ、と。
同じ年頃の息子さんがいると話していたから重ねているのだろう。
「夏目くん見てると、私もなにかしたくなるわね。
編み物でもまたしようかしら」
「編み物ですか。
いいですね。
されてたんですか?」
「若い頃はしてたのよ。
子供が大きくなるにつれて忙しくなってね。
部活とかクラブとか。
土日も早くから起きてお弁当作って、送迎して、応援して。
仕事も忙しかったわ。
いつの間にか、気付いたらしなくなってて。
けど、してみたくなったわ」
指折り数えるのは家族のこと。
おばさんはその一つひとつを懐かしむように笑った。
自分の時間がなくなったことへの愚痴ではない。
きっと編み物も、仕事も、家族との時間も、おばさんにとっては同じように大切だったんだろう。
そういう顔をして話している。
「最近、編み物の本多いでしょ。
並べるたびに思ってたの」
「編み物したことないけど楽しそうですね」
「楽しいのよ」
最近のは色使いが新鮮よね、と笑うおばさんはすごく楽しそう。
きっと編み物が好きだったんだろうって分かる。
誰のせいでもなく離れてしまった。
だからこそ、いつでも帰ってこられる場所なんだろうな。
いいな
楽しそう
「まずはドイリーからかな」
「ドイリーってなんですか?」
「やだっ、死語?」
そんな話をしていると眠気が吹き飛ぶようだ。
ともだちにシェアしよう!

