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第31話
沢山の付箋や赤ペンの入った原稿を取り出され背筋が伸びる。
自分のためにここまで時間を使ってくれた。
まずはそれが嬉しい。
そして、本当に売れるようにしてくれているのが伝わってくる。
「ここね、すごくいいよ。
この表現、俺は好き。
けど、ほらこっち。
夏目くんの前の原稿。
こういう書き方も夏目くんは出来てるよね。
これを生かしてほしいかな」
「こことこれの違いってなんですか?」
「うーん…。
意地悪さ、かな」
良いところと改善点の違いが分からない。
なんとなくこっちが好き、と選べてもそれがなぜなのかは言語化出来ない。
本を読むといっても、理解して読むと楽しんで読むとでは全然違うなんてことを今更知った。
国語の授業で何年も理解することを学んだはずなのに。
「例えば、わざと教えない。
それってどうしたって考えないといけないよね?
なんであんなことしたんだろう、とか。
なんであんなこと言ったんだろう、とか。
そういうモヤモヤとかをわざと残すと考えちゃうでしょ。
それが読者を惹き付けるっていうか、錯覚させられる」
「あー、なるほど」
王子だって、シンデレラのガラスの靴が残されたから探したんだ。
なにも残らなければ探すことすら出来ない。
例えあざといと言われても、なにかを残さないと物語は動かない。
作品内も、読者側も。
「先生はそういうの上手だからね。
いいところで切るの。
次のページを捲らせるっていうか、次の文を読ませるのが上手いね。
勉強したいなら先生がおすすめだよ。
この部屋なら先生の本も読み放題だし」
一見自分に興味のない先生でも、見本誌にもらった本はきちんと本棚に並べている。
いや、正確には佐伯さんが並べているが。
他の出版社の物も。
出版社で言えば、佐伯さんの勤務先が贔屓先なのか冊数が多い。
たまに他社の編集者と電話しているのを聞くことがあるが、佐伯さんに対してより丁寧だ。
やっぱり佐伯さんには圧倒的に信頼があるんだろう。
こうして作品を一緒につくっているとその信頼がどこから沸いてくるのか分かるようだ。
「夏目くんって流行りで勝負しないよね」
「え?
そうですか?」
「うん。
あぁ、古くさいって意味じゃないよ。
今っぽさはある。
けど、旬のジャンルってあんまり書いてないイメージ」
「好きなものを書きたいなって思っちゃいます。
そもそも同人の人間ですし」
「それが夏目くんの強みだよ。
覚えておいて。
流行りに媚びたって売れるのは最初だけ。
自分の書きたい物は百人中一人だけにしか刺さらないのかもしれない。
それが今じゃないのかもしれない。
それでも、その一人の生き方をかえられるほど刺さればそれは誇るべきことなんだよ」
その言葉で、ふと幼い頃のことを思い出した。
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