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第49話
電話の向こうで夏目くんは頑張りますと言っていたが、大丈夫だろうか。
書くことではない。
あの子の筆の早さなら3ヶ月は決して短くはないだろう。
仕事との両立も心配材料ではない。
今のように休憩時間でも律儀に電話やメールの返信もしてくれるし。
時間の使い方の上手な子だ。
なら、なにが心配なのか。
なんとなくの勘でしかない。
多くの人と関わってきて身に付けたなんとなくのもの。
椅子の背凭れをキィ…と軋ませ、寄りかかる。
本人にやる気があって実力もある
手放すのは惜しい
けど、紙がいいって言われるとな…
電子なら在庫リスクも少なく確率が上がる。
だけど、夏目くん本人がそれを望んでいない。
だから本人の希望通りにすべきなのは理解している。
しているが勿体ない、と思ってしまう。
他社…か……
先生なら、書くのはこっちの仕事で売るのはそっちの専門だろなんて言うんだろうな
当たり前のことを当たり前に言うから相談しにくいんだよ…
飄々と自分の生き方を通しているようで、先生も地道にコツコツ仕事をこなし信頼を積み上げている。
ただの風来坊な作家ではない。
う゛ーん……
机の引き出しからチョコレートを取り出し口に放り込む。
「佐伯、お疲れ」
「お疲れ。
俺?」
「そ。
その前推してた子どう?」
「あー、今さっきメールしたのに」
「入れ違いしたわ。
メール見して」
口頭で聞かないのかと言おうと思ってやめた。
読んでもらった方が早いのは確かだ。
同僚がメールを目で追うのを待ってから声を掛けた。
「なぁ、実力ある子が厳しい道を選んだらどうする?」
「あの子だろ。
夏目くん」
「んー…」
「先生とどっちが大変だよ」
「ベクトルが逆。
先生が鋼なら、夏目くんは竹。
根っこは似てる気もするけど…」
紙でなければ。
そう思ってしまう自分がいる。
売ることを考えれば当然だ。
けど、それだけじゃないとも思っている。
「編集としての佐伯の意見は?」
「売りたい」
「佐伯個人は?」
「売れる」
数字じゃ説明出来ない。
それでも、俺は面白いと思って読んでいる。
切り口が斬新だとか、新しいということではなくて。
リズム感がいいとでも言えばいいのか。
不思議な魅力のある子だ。
俺はそれが推せると思っている。
「ふぅん?」
あの原石を磨いてみたい。
「で、俺に用事?」
「あぁ。
これ、この前言ってたやつ。
プリントアウトしといたから感謝しろよ」
「助かる。
先生が資料探しててさ」
「こんなんでいいならいつでも言えよ。
あと、身体だけは気を付けろよ」
「善処する」
どうすることが夏目くんにとっての最善か。
それを考えるたびに、上書きするように手放したくないと思ってしまう。
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