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第50話
一応の期日が決まったが、書くものが決まった訳でもない。
なにを削らないか。
なにで勝負するのか。
悶々と考えていたらあっという間に数日が過ぎてしまった。
そんな中、勤務時間に珍しく先生からメッセージが届いていた。
勤務中に届いていたが売場変更で忙しくしていたため、漸く見れた頃には届いてから時間が経ってしまっている。
開いてみると、生活必需品の買い出しや食べたい甘味の話ではない。
『気分転換がしたいのだが、散歩をしないかい?』
散歩…?
仕事は目星がついたのか。
そもそも本当に暇なのか。
締め切りは守る人だからその点についてだけは安心だが、それでも気になることはいくつもある。
あるが、帰宅したところで予定はない。
佐伯さんに提出する原稿くらいだ。
それだって自宅でなければ出来ないなんてこともない。
二つ返事で返信を打った。
『お疲れ様です。
今、仕事が終わりました。
分かりました。
部屋に行けばいいですか?』
着替えといってもエプロンを外したりと大したことではない。
着替えを続けていると、すぐに返信が届いた。
通知プレビューには簡単な文字だけが並んでいる。
『外にいるよ』
外…?
ファミレスか?
『書店の』
続けて届いたメッセージに目を丸くする。
は…?
返信するまで50分以上待ってたのか?
慌てて鞄をひっ掴むと同僚への挨拶もそこそこに書店を出ると本当にそこに先生はいた。
飄々と風に吹かれている。
髪の毛が風に揺れ、その奥の目が俺を見付けると少しだけ細められた。
「おや、お疲れ様。
早かったね」
「お疲れ様です…。
早くはないでしょ…。
連絡きてから50分以上経ってますし。
先生、ずっと待ってたんですか?」
「んー、カプセルトイ回したり書店の回り歩いたりしてたよ」
ほら、と手のひらに乗せて見せるのはカプセルトイの玩具だ。
流行りのキャラクターがなにかを食べているキーホルダーだ。
「可愛いだろう?」と溢しながら、大切そうにポケットにしまう。
「書店はいいね。
出会いの場だよ」
先生は書店を見上げて言った。
「はい」
「けど、一万店を切ってしまったね」
「…はい」
「本は、どこでも売れるから」
でも、運命の出会いはなくなる。
ふらっと立ちよった店で出会う本たち。
あのわくわくは、たまたま出会うからそこだ。
先生とも。
先生とも、たまたま出会えた。
だからこんなにわくわくするのか。
運命なんて不確かなものではなく、たまたまだから。
「行こうか」
「はい。
でも、どこに…?」
「食事だよ。
いつも食事を用意してくれるだろ。
たまには俺がもてなそうと思ってね」
「いいんですか?
俺、仕事終わりで腹減ってますけど」
「ははっ、当然だろ。
焼き肉でもいいよ。
ラーメンがいいかい?」
「なら、ファミレスで。
なんでも食えますから」
「安上がりな子だ」
視線を落とし、ふと笑う横顔はまた俺の知らない顔だった。
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