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第16話 神なりの好意を寄せた理由

「いっ!」  首元に顔を埋めてきたエドゥアールヴァレットが噛み付いた。牙が肉に刺さり、少しばかり溢れた血を吸うと、傷口を舐める。  痛みからか意識がはっきりしてシャルルは「何!」と問えば、「飲みたくなった」と答えられる。あまりにも良い表情をしていたからと。  それで飲みたくなる意味が分からないのだが、「とても愛らしい」と額に口付けを落とされて、シャルルは恥ずかしさで黙ってしまう。  意識がはっきり戻ってきて、気持ちよさに喘いでいたことを思い出してしまい、シャルルは枕に顔を埋める。行為は二回目であったけれどまだ慣れない。 (めっちゃ、気持ち良かった……)  気持ち良くてどうにかなりそうなほどには、快感を感じていてシャルルは一人ではもうできなくなりそうだった。それは負けた気分になるのだが、自分がこういったものに弱かったのだと言い訳をしてみる。  言い訳をしたところでもう自分一人で気持ち良くなれないことには変わりない。うぅと小さく唸ればエドゥアールヴァレットに抱きしめられた。 「シャルル。一人でする必要はない。私に言ってくれればいい」 「うるさい。俺から言うなら、あんたからも言え」  自分ばかりが誘うのはプライドというべきか、許せなかったのでそう言えば、エドゥアールヴァレットはなるほどと呟く。  なんだと枕から顔を上げれば、エドゥアールヴァレットに口付けされる。 「では、言わせてもらうことにしよう」  じっとりと見つめられてシャルルはこれは駄目だったかもしれないなと思ったけれど、時すでに遅く。 「も、もう一回は、むり……」 「シャルル」 「耳元で囁くな! って、ちょっとまっ、あっ♡」  熱が後孔にあてがわれたかと思うとぬるりと挿入されて、シャルルは抗うことができなかった。    *** 「ひどい」  シャルルはベッドから起き上がれず、枕に顔を埋めていた。これは恥ずかしいからとかではなく、疲れすぎて起き上がる気力がなかったのだ。  あれからさらに二戦やったわけだが、もう限界だった。体力に自信がある自分でも、快楽というのはそれを溶かしてしまう。エドゥアールヴァレットは奥に拘るし、それがまた怖かった。どうにかなってしまいそうになって。  喉が痛い、喘ぎすぎた。汚い声になっていた気がしなくもないが、エドゥアールヴァレットは嬉しいそうに我慢するなと言ってくる。そう言われてしまうと、なんだか逆らえなくて声が出ていた。 「言ってくれということだったから、そうしたのだが」 「そうだけど、そうじゃない」  シャルルの発言であるのは事実だが、今とは言っていない。と、主張してもエドゥアールヴァレットは首を傾げるだけだ。だから、シャルルはもう突っ込むのをやめた。  神様だって性欲があるじゃないかとシャルルは実感する。顔を上げれてじとりと隣でこちらをずっと見つめているエドゥアールヴァレットを見た。 「どうかしただろうか?」 「神様でも性欲はあるだなと」 「人間と同じというわけではないが、ある」  人間の性欲というものがどのようなものかは分からないが、神にもそういった欲求というものはあるのだとエドゥアールヴァレットは教えてくれた。  それは誰彼構わず向けるものではなく、自分のモノに抱くのだと。相思相愛の存在であったり、想い人であったりと様々であるらしい。  それを聞くと自分は愛されているということだろうかと、シャルルは思った。何処がと口に出そうになる、いや出していたらしく、エドゥアールヴァレットは目を瞬かせる。 「私はシャルルを気に入っているのだが……」 「それ、よくわかんないんだけど」  あの問の返しに惹かれる要素があっただろうか。シャルルには理解ができなかった。エドゥアールヴァレットはふむと考えるように目を細めてから、「人間というのは同じような生き物なのかと思っていた」と答えた。  人間に興味があまりなかったのは事実で、深く関わろうとはしなかった。ただ、人間から助けを乞われて気まぐれに手を差し伸べていただけだ。  皆、質問には同じように答えて、同じような態度だった。恐れで震え、へこへこと頭を下げて、死にたくないと目が訴えているというのに死を受け入れると嘘をつく。人間というのは神の前ではこうも同じ言動なのかと、その弱さに呆れていた。  弱い生き物であるというのは理解していたつもりだったけれど、あまりの弱さに心配になるほどだった。とはいえ、契約以上のことをしてやるつもりはない。ただ、助けてくれと契約を交わすことは許していた。それが、神ならではの慈悲だ。 「けれど、君は違っていた」  そろそろ贄が送られてくるだろうというのは、不作が続いているのを見て予想していたことだ。またあの弱さを目にするのかと思っていた――けれど、違った。  シャルルは自分の意思で嘘なく答えた。生きられるならば生きたいと、死ぬしかないなら死を受け入れると。国に戻れずとも後悔はなく、死ぬ覚悟を持って。  神の御前で冗談を言える度胸は面白く、生きたいというのに死を受け入れるという滑稽さ。神と軽い口調で話す遠慮の無さ、質問をする勇気。これらは今まで見てきた人間と違う。  弱い生き物ができることではない。いや、弱いながらに強い部分がある者ができることだ。興味が湧いた、生かして傍に置いてみたいと。  |僕《しもべ》でもなく、ペットでもなく、傍に置いて愛でたい。会話をしてみたいと、これは好ましく、気に入ったという証だ。 「君の鳴き声も、快楽に溺れる顔も好ましい。これらの感情だけでは、人間には伝わらないということだろうか?」  シャルルは神と人間の感性の違いを知った。人間は見た目や性格、言動などから惹かれていくものだが、神はそうではない。見た目や性格などに興味はなく、あるのは弱さの中にあるモノだ。  度胸や勇気は強さであり、遠慮の無さはどんな相手であっても動じない心の表れで、死を受け入れているというのに生にしがみつく滑稽さは弱さである。弱さの中にシャルルは強さがあり、光るものがあった。神はそこに惹かれただけだ。  惹かれて、気に入り、好ましくなる。神の感性をシャルルは理解したけれど、受け止めきれなかった。人間と違った方向性だったからか、自分の抱いた感情への答えが纏まらない。 (なんだろう、この感情)  温かいような、不思議な感覚。この感情の答えが出ないのは、きっとそんなふうに言われたことはなかったからだ。父にすら居なくなっても問題ない扱いを受けていた身からすれば、余計に。  だが、エドゥアールヴァレットが自分のことを好ましいと思っていることは分かったので、シャルルは彼の感情を疑うことはやめた。 「理解はしたけど、俺でいいわけ?」 「シャルルがいい。君からの愛が貰えるように努力しよう」 「……あっそう」  なんとも真っ直ぐな瞳を向けてくるものだから、シャルルは言葉が見つからなくて、そっけなく返事をすることしかできなかった。

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