17 / 29
第17話 今は会いたくないと思っているとフラグは立つ
シャルルは目の前で繰り広げられている攻防戦を眺めていた。
いつものようにハルモエール邸の中庭でお茶会をしていたのだが、サジェンタとリヴァスが睨み合いながらユリウスの隣を取り合っていた。
ユリウスが落ち着いてと注意しても聞かないせいで、今は決着がつくまで待っているところだ。リリアーヌは大丈夫なのかと言いたげにユリウスを見つめるが、「僕はもう知らない」と彼は二人を無視している。
「ぽっと出の男にユリウスを渡すわけがないだろう」
「王子だからって何でも自由にできると思うな」
ガルルという唸り声が聞こえそうな二人の睨み合いに、ユリウスが眉を寄せながら「いい加減にしてほしいんだけど」と叱る。
「あのさ、少し落ち着いてほしい。ケンカをしてほしいわけじゃないんだよ」
「おれはユリウスのためにこいつを注意しているんだ」
「注意される筋合いはないが?」
ユリウスの注意に二人は自分の言い分を並べ始める。だんだんとユリウスの表情が怖いものになってきているのを察して、シャルルも助け舟を出すかと会話に入り込む。
「そこ、ケンカやめてくれない?」
露骨に嫌そうな顔をしてみせながらシャルルが「リリアーヌが不安を抱くんだけど?」と、彼女に目を向ける。リリアーヌはなんとも申し訳なさげにリヴァスたちを見ていた。
リリアーヌの様子に気づいたユリウスが「ごめんね!」と謝る。これには二人も周囲を見ていなかったので言い返せず。渋々と言い合うのを止めた。
ユリウスに注意された時点で大人しくならないものかねと言いたかったが、恋というのは周囲が見えなくなると聞くので仕方ないのだろうと、シャルルは納得させる。
「全く……。あれ? |豊穣《ほうじょう》龍様、なんか考えてないかな?」
「え?」
何か考えているふうに見えるけれど。ユリウスはそう言って視線を向ける。少し離れた中庭にある花のアーチの傍にエドゥアールヴァレットはいた。
ヤーヘンとウーリンと話をしている彼はふむと顎に手をやっている。そんな仕草にシャルルは首を傾げる、何かあったのかと不思議そうに。
(なんかあったんなら、言ってほしいけどなぁ)
椅子の背もたれを抱くように座ってシャルルがエドゥアールヴァレットの様子を眺めていれば、ゆっくりと彼の視線が持ち上がった。
ばちっと目が合ってしまうも、逸らすことなく見つめ返せば、エドゥアールヴァレットは近寄ってくる。
「シャルル、どうかしただろうか?」
「いや? なんかあったかなぁって思っただけだけど」
「何か? ……あぁ、シャルルには他にも兄弟はいるのだろうか?」
エドゥアールヴァレットの突然の問いにシャルルは目を瞬かせる。何故と言いたげな眼をしていたようで、彼に「二人から聞いたが」と言葉を続ける。
「いくつか話を聞いて知ったらしいんだ、君には兄と弟がいると。彼らには会わなくていいのだろうかと、疑問を抱いたのだが……」
兄と弟。シャルルはあーっと思い出したように視線を逸らした。忘れていたというと兄弟仲が悪く聞こえるかもしれないので口には出さないが、下手に関わりたくなかったというのは事実だ。
死に戻って縁を切られた身としては実家を訪れるのは気が引けた。暗殺者一族であるのをエドゥアールヴァレットに知られたくないというのもあるが、兄は弟妹たちに対して過保護である。
(贄にされた時もなんか言われたくなかったから、ギリギリまで内緒にしておいたんだよなぁ)
兄の過保護さに面倒な事になるのは嫌だったので、父に頼んで自分が贄に出された後に知らせるようにしてもらったのだ。
「リリアーヌ。アレックス兄さんはどんな感じだった?」
「……とても不満げで……だから、わたし、シャルルお兄様に会いに行くときは〝招待されている人以外は駄目なの〟って言って此処に来てるの……」
リリアーヌ、よくやった。シャルルは妹の機転に心中で感謝する。
兄アレックスは勝手に贄として出されたことに不満を抱いているのだ。何か言われるのはそれだけで想像ができた。
「その嘘はいつかバレるとおれは思うが」
話を聞いていたリヴァスが言う、彼はハルロットと仲が良いだろうと。ハルロットから招待の話などないと伝わればと、そこまで言われてシャルルは痛むこめかみを抑えた。
リリアーヌは「今日はまだ大丈夫だったわ!」と教えてくれるが、自分を招待しないことへの疑問を抱く頃合いだろう。シャルルは嫌だなぁと思わず口に出す。
「アレックス兄さん、うるさいんだよなぁ……」
「……会わなくていいのだろうか、シャルル?」
心配をかけてしまっているのならば、会って安心させるべきではないか。エドゥアールヴァレットの言葉にシャルルはそうだよなと頷く。
嘘だと知られる前に会って話をしておいたほうが、うるさく言われずに済むはずだ。仕方ないとシャルルが溜息をつけば、黙っていたサジェンタが「アレックスって言ったか」と口を開く。
「アレックスは俺の兄だけど?」
「そいつならあんたらが来る前に此処に来たぞ」
はぁっと声が出た。リリアーヌも知らなかったことのようで目を丸くさせている。そんな様子にサジェンタは「お茶会が終わる時間を聞かれた」と話す。
ユリウスが朝食を食べている時刻、サジェンタが庭の手入れをしていたところに青年がやってきたのだという。
きっちりと着こなす正装姿に爵位が高い人間であるのはすぐに分かったらしい。
話を聞けば、リリアーヌの兄アレックスと名乗り、迎えに行く時刻を知りたいからとお茶会の終わる時間を聞いてきたのだと教えてくれた。
「サジェンタさん、教えたの?」
「あー、大体の時間は。ちゃんと身分は提示されたしな」
妹を兄が迎えに行くというのは不自然ではないのでサジェンタはそう言ったのだが、シャルルはそれどころではなかった。
時計を確認すれば、十五時を過ぎている。もう少しすればお茶会はお開きになる頃間だ。すっと息を吸って吐き出す。
「帰ろう」
「お兄様、妹を置いて逃げないでください!」
「もうバレてるってぇ」
兄がわざわざ迎えに行くことなどないのだ。嘘だと勘づかれているのはその行動で理解できるし、なんとなく嫌な予感がする。
「|僕《しもべ》の二人から話を聞いて、心配をしたのだが……大丈夫だろうか?」
あぁ、不安とまではいかなくとも、心配させてしまっている。シャルルはそれはそうだよなと思った。
エドゥアールヴァレットは何かと気にかけてくれる。妹たちとの時間は小まめに作ってくれるし、長くお茶会をしていても「君が楽しいのなら」と文句も言わない。
他に兄弟がいると知れば、彼らを安心させてあげるべきではないかと気遣うのは当然だ。
「リリアーヌお嬢様、お兄様がお迎えに……」
どうしたものか、シャルルが思案していれば、中庭へ通じる花のアーチからメイドが顔を覗かせながら呼ぶ声がする。その背後に見知った顔を見つけてシャルルは立ち上がった。
ともだちにシェアしよう!

