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第18話 兄、襲来
逃げられないなら隠れよう。シャルルはこっちにやってくる兄の姿に覚悟を決める。そんな様子にエドゥアールヴァレットが首を傾げた。
「それほどに嫌なのか、シャルル?」
「兄が嫌いとかではないんだよ。ただ、面倒なだけなんだ」
「お兄様、そう言って豊穣龍様の後ろに隠れようとしないでください!」
逃げることが敵わないのならば、隠れるほかない。シャルルは絶対安全圏であるエドゥアールヴァレットの背後に隠れた。
リリアーヌも慌ててシャルルの後ろへと姿を消す。傍から見ればおかしな光景ではあるのだが、誰かが突っ込む前に声がかけられる。
「シャルル、何をしている」
少しばかり低い声にシャルルは怒っていることを察した。ちらりとエドゥアールヴァレットの背後から顔を覗かせれば、男前な顔立ちに似つかわしくないほど眉が寄っている。
オレンジの髪を掻き上げている彼は間違いなく、兄のアレックスだ。
「なぁにも?」
「……シャルル。勝手な事をしたな」
勝手な事。力強い眼にこれはきっとユリウス暗殺の件も知っているなとシャルルは気づいた。けれど、顔に出すことはせずに首を傾げてみせる。
ますます怖い顔になるアレックスにこれはどうにか落ち着かせなくてはと、シャルルはなるべく普段と変わらないふうに「別に何もしてないさ」と返す。
「俺はただ、可愛い妹のために身体を張っただけだよ」
「……なるほど。〝そうしておきたいのか〟……分かった」
その言い方はもう知っているのは確定じゃないか。あぁ、面倒なとシャルルがちらりとエドゥアールヴァレットを見遣れば、少しばかり不満げにしていた。
自分の知らないことで話が進んでいるからだろう。この場でこの話題を知っているのは妹のリリアーヌだけだ。
弟妹想いも大概にしてくれないか、なんていう突っ込みは聞いてはくれない。そんなのはアレックスの呆れた顔を見れば分かることだ。
「分かっているならこの話は此処までってことで。俺は無事なんだからいいだろ?」
「何が無事だ。番になったなど、どう受け入れろと言う」
命は助かったとはいえ、神の番となった。それはつまり生きるも死ぬも神に従うということなのだから。
アレックスは「この意味が分からない人間など早々いない」と渋い表情をする。
神が死ねば共に逝かなくてはならず、神が生き続ければ何があっても生きなければならない。神から逃げることは許されない、それを言いたいようだ。
「知ってるよ。もう番になったんだから、それぐらい。兄さんやリリアーヌよりも長く生きるけれど、まぁ独りではないからいいさ」
エドゥアールヴァレットは傍にいるだろうし、同じ存在であるヤーヘンとウーリンがいる。独りというわけではないのだからと言ってみれば、アレックスは言い返そうとする口を閉ざす。
急に黙ったことになんだとシャルルが視線を辿れば、それはもう不機嫌そうなエドゥアールヴァレットがそこにいた。
(あ、これはまずい)
流石のシャルルでも気づく。リリアーヌもあわあわと慌てているし、ユリウスは怯えた顔を見せ、リヴァスは両者を警戒して、サジェンタはあーっとやっちまったなといったふうに額に手を当てている。
神を怒らせてどうなるか。そろりと後ろを振り返れば、ヤーヘンとウーリンが無言で「伴侶様どうにか」といったふうに手を合わせていた。
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