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第20話 父と再会
シャルルの実家は王都の王城近くにある。国お抱えの暗殺者一族であり、公爵の位を持つために王族の傍にいることを許されているのだ。
この国の王都は広い。それ故に城下町など区分けがされているわけだが、王都から外れた場所にあるユリウスの屋敷からだと遠かった。
馬車を使って屋敷に到着する頃には十六時を過ぎてしまっている。呼び出すならもう少し早くしてくれなどとシャルルは心中で愚痴るも、アレックスに促されて渋々と屋敷へ入った。
久方ぶりの実家は特段、何か変わった様子もない。シックな内装にシャンデリアは煌々と室内を照らしている。
程よく飾られた調度品は下品ではなく、品があって相変わらず父らしいとシャルルは眺めていれば、「ようこそお越しくださいました」と少し低めの声が耳に入った。
視線を向ければ上品に仕立てられたスーツ姿の父が歩いてくるのが見える。うげっと顔を思わず顰めれば、アームレットにじろりと一瞥されてしまう。
「わたしがシャルルの父、アームレットと申します。この度は挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません、|豊穣《ほうじょう》龍様」
「いや、気にしていない。こちらこそ、ご両親に挨拶をするという考えに至らなかったことを詫びさせてほしい」
エドゥアールヴァレットが申し訳なかったと謝罪の言葉を口にすれば、アームレットは驚いたように目を開いてから、「豊穣龍様は悪くありませんので」と慌てて返す。
神であるエドゥアールヴァレットが謝るとは思っていなかったようだ。父がどういった印象を抱いていたかは知らないが、想像とはちがっていたのだろうことはその反応で分かる。
シャルルは調子が崩れたなと父の様子に察した。彼は何かしら思惑があるとシャルルは勘づている。
(さて、父はどうするのか)
シャルルはアームレットを警戒しながらも、表に出すことなく飄々としてみせる。「父上は気にしすぎなんだよ」と軽い口調で話しかけることで。
「気にしない人間はいないだろう、シャルル。この方は神であるのだから」
「それはそうかもしれないけどさ。エドゥの態度を見れば、変に気を使わなくてもいいって分かるだろ?」
ほらとシャルルはエドゥアールヴァレットと腕を組みながら指さす。彼は至って落ち着いており、気分を害してはいなかった。むしろ、挨拶をするのが遅れたことを申し訳ないと思っている。
この神は嘘が嫌いだ。それはこの国で暮らす人間の殆どが知っていると言ってもいいぐらいには有名だった。
嘘が嫌いなのだから、本心以外を口に出すことはしないと思うのは必然で、アームレットは納得したように頷く。
「わたしの息子を伴侶として番に迎え入れてくれたこと、感謝いたしております。まさか、選ばれるとは思っていなかったので、暫く信じられなかったほどです」
「そういった反応になるのは仕方ないことだ。今までの贄の最後を考えれば、想像できることではなかっただろう。ただ、私がシャルルを番にしたいと思った感情に嘘はないので安心してほしい」
彼の弱さの中にある強さに惹かれたのは事実だ。他の人間とは違った感情というのは面白く、輝いて見える。エドゥアールヴァレットは「大切にしている」と、危害を加えていないことを伝えた。
彼なりに安心させるための言葉だったのだが、アームレットが一瞬だけ顔を顰める。それにシャルルが気づかないわけもない。注意深く観察していたのだから。
(あぁ,これはあれだな。俺をまだどうにかしたいと思ってるんだ)
父は仕来りを重んじていた。暗殺者として認められる時も厳しい試験を課せられたし、掟を守らされてきたのだ。そういったものを忠実に守っているならば、本来は始末されていてもおかしくはない立場にシャルルはいる。
アームレットは諦めていないのではないか。そう推理することがたった一瞬の反応でできてしまった。なんと、面倒なことだとシャルルは呆れてしまう。
(プライドやら仕来りやら、そんなものに拘るなっつーの)
こういった性格が父の嫌いなところだった。シャルルはできれば、変な事はしないでくれよとじとりと見つめる。
視線に気づいているだろうアームレットは無視をしているようで、なんでもないといったふうにエドゥアールヴァレットと会話をしていた。
機会を窺っているのを察してシャルルはこの分からずやと口に出そうになる言葉を堪える。
せっかく死に戻ってやり直しているのだ。また、くそみたいな結末を迎えるのが御免だ。どこぞの女神様からの見物料を無駄にはしたくはない。
だから、シャルルは「挨拶は終わったんじゃないの?」と、話を切り上げさせようと会話に入った。
「時間も時間なんだし、挨拶が終わったならさっさと帰りたいんだけど?」
「お前は相変わらず、こういったものが嫌いだな。挨拶だけで済ますほうが失礼だろう」
「父上は話が長いんだよ」
「息子の事なのだから話が長くなるのは当然だろう。あぁ、そうだ。豊穣龍様とだけ話したい事がある。お前はアレックスとミサエルに黙って贄になったことを謝ってくるといい」
ミサエルはかなり心配していたんだからな。アームレットにそう言われて、シャルルはまずいなと思った。エドゥアールヴァレットと二人っきりの時に何か言うつもりなのだ。
此処は抵抗したほうがいい。シャルルが言い返そうとすれば、エドゥアールヴァレットに「兄弟を安心させてくるといい」と、気遣われてしまった。
「私は問題ない。シャルルが兄弟を安心させてあげるといい」
「いや、でも……」
「豊穣龍様の厚意を無駄にするのは如何なものか。シャルル」
伴侶ならば顔を立てるべきではないか。そんな言葉を含む言い方にシャルルは眉を寄せながらも、エドゥアールヴァレットに大丈夫だと言われてしまい。
「分かったよ。でも早めに戻ってきてほしいかな」
「疲れているのだろうか。それならば、早めに切り上げよう」
疲れていると言えば、心労的にはその通りだ。父が何を言い出すのか、ひやひやしている。もし、暗殺者一族という秘密を明かそうとしているなら余計に。
不安を抱きつつも、シャルルはエドゥアールヴァレットに言われるがままに部屋を出た。ちらりと見えた父の眼がすっと細まっていたのを睨みつけながら。
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