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第22話 全てをぶっ壊してやることにした
驚き皆が振り返れば、エドゥアールヴァレットが室内へと入ってくる――険しい表情で。あまりの圧にその場にいた全ての人間が声を出せなくなってしまう。
ヤーヘンとウーリンも恐れているように扉の前から動けないでいる。彼らが恐怖を抱いているということはそれだけの事態であるのだ。
「シャルル。現状の説明をしてほしい」
「え?」
「その状態の説明次第では私は力を行使しなくてはならなくなる」
圧。シャルルはエドゥアールヴァレットが本気であるのを察して、「なんでもないよ」と慌てて返答した。
「兄さんが過保護で説教されてただけ! 他意はない!」
じっと見つめられたシャルルが目を逸らさずにいれば、なるほどと少しばかり落ち着いた様子をエドゥアールヴァレットは見せた。
何かあったのはその様子だけで察せられる。アレックスはシャルルから離れ、ミサエルとリリアーヌはソファから立ち上がって姿勢を正す。
「どうしたの、エドゥ?」
「シャルルの〝隠し事〟というのは理解した」
隠し事。たった一言で全てを理解する。父アームレットは彼の神に明かしたのだ、暗殺者一族であると。
神である彼はどんな反応を示すのだろうか。シャルルは言葉を待つ。
「一つ問おう、シャルル」
「何?」
「君はどうしたいだろうか?」
エドゥアールヴァレットの問いの意味が理解できず、シャルルは首を傾げた。けれど、彼の眼は真剣そのもので。
ちゃんとした言葉で返事をしなくては、神の怒りを買う。シャルルだけでなく、その場にいた皆が感じ取った。
どうしたいのか。シャルルの中にはいろんなものがあった。死に戻ったのだから生きていたい。ユリウスたちを見守っていないし、リリアーヌとアレックス、ミサエルたちとこれからも兄妹として親しくしていたい。
でも、どれも彼の神に通じる言葉ではない。シャルルは本心を聞きたいのだと、エドゥアールヴァレットの真意に気づく。
(エドゥとは、離れたくは……ない)
自分を認めてくれて、愛してくれたのだから。その想いにまだ自分は応えきれていない。ふと、扉の前に父アームレットの姿が見えた。彼の不敵な笑みにシャルルの中で何かが切れた。
(っざけんなよ、クソ親父)
全て思い通りにさせてたまるか。シャルルはぶち壊してやろうと決意した。
「やりたいことならたくさんあるさ。ユリウスたちを見守っていたいし、兄と弟妹たちと仲良くしていたいとか」
なんでもないように、いつもと変わらぬ口調でシャルルは言葉を紡ぐ。
「でも、一番はエドゥと一緒に居たいかな」
最初は戸惑いもあった。番にされて、伴侶として祀り上げられることに。エドゥアールヴァレットからの愛が理解できなかったけれど、今は違う。
神なりの愛し方というのを自分は知ったのだ。ただ、その想いに自分が返事をできていないだけ、答えが出ていないせいだった。
一緒に居たいと思ったのは本心だ。彼の温かさからは離れがたくて、手放したくはない。愛されているのだから、そう感じるのは当然だ。
「エドゥが俺たちの一族がどんな存在か知って、穢れていると感じるならそれでもいい。俺を殺したいと思うならば、そうしてくれて構わないよ」
離れがたくても、手放したくなくても、貴方がそうしたいのならば身を引こう。この身体を捧げよう。けれど――
「兄妹たちは悪くないっていうのは理解してほしい」
アレックスもミサエルも、リリアーヌも、何も悪くはない。黙っていたのは自分の意思だ。シャルルの言葉にエドゥアールヴァレットはすっと目を細めてから口を開く。
「それから、何か言いたいことはあるだろうか?」
「あるよ」
即答してシャルルはアームレットの方を見てから右腕を持ち上げて親指を下に向けた。
「父の思い通りになるぐらいなら、ぶっ壊してやりたいね!」
それはもうにこやかに言ってみせる。シャルルの嘘のない返答に、エドゥアールヴァレットは細めていた眼を開いて――ふっと笑んだ。
「ならば、壊してしまえばいい。私はシャルルの願いを叶えよう」
エドゥアールヴァレットの一言に不敵な笑みを浮かべていたアームレットの表情が崩れた。それは神が許した証明だからだ。
「返答次第では私自ら彼を始末するつもりだったが、シャルルはそれを望んではいない。ただ、〝父親の企みを壊したい〟、そうだろう?」
エドゥアールヴァレットの問いにシャルルは「そうだよ」と答える。父に死んでほしいわけではない、企みをぶっ壊してやりたいだけだ。
「では、そうしよう。アームレット殿、君は私の怒りを買おうとしたのだろう。だが、私はシャルルの隠し事を受け止めた上で、番にしている」
私と共にいることで都合が良いのだろうと、私は彼に伝えている。エドゥアールヴァレットは冷静に、けれど圧を籠めて言った。
「君たちの一族がどうであれ、神たる私には関係ないことだ。むしろ、君たちが殺した以上に私は多くの人間を冥府に送っている」
殺しが穢れているというのならば、贄を食らっている私も同じということだ。自分は良くて、人間は許されないなど、そんな傲慢な神ではない。エドゥアールヴァレットははっきりと宣言する。
「何があろうと、弱さの中に強さを持ち合わせ、友人を兄妹を想う優しき心を持つシャルルを手放すことはない」
否定や拒絶、反論。全てを許さない。エドゥアールヴァレットの龍の眼の鋭さにアームレットは唇を噛み締めることしかできなかった。
父は負けたのだ。掟を破った一族の恥である息子に。
「シャルルだけではない。彼の兄や弟妹、友人に手を出すような事をすれば、神の怒りを買うと思ってくれ」
「……畏まりました……」
ぐぅっと小さく呻ってアームレットは返事をする。しなければ、自分の命がないのを察して。
シャルルは父の企みをどうしようもなく重かった空気ごと、ぶっ壊した。
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