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第23話 気持ちも傾いていく
父の企みをぶち壊した感想を一言で表すならば、「爽快」だ。居なくなっても問題ないと愛さなかった息子に負かされた父の悔しげな表情を見て、シャルルの心はすっきりとした。
何せ、シャルルがエドゥアールヴァレットの前で自分の意思を示さなかったら、自分の命はなかったのだ。そう知った父の心境はぐちゃぐちゃだったろう。
死に戻る前の仕返しができたシャルルは満足していた。
エドゥアールヴァレットへの隠し事も後は死に戻ったことぐらいになったから、気持ち的にも楽になっている。いるのだが――
「エドゥ、重い」
月が昇る夜。薄闇の寝室でベッドに身体を起こして寄りかかりながら座り、エドゥアールヴァレットに前から抱き着かれること数十分。会話が全くない。
流石に足の上に寝そべって抱き着かれては重いわけで。何も言わないのも不安になったシャルルが声をかければ、エドゥアールヴァレットはゆっくりと顔を上げた。
不満、に近い表情をしているのを見て、シャルルはまだ何か思うところがあるのだろうかと聞いてみる。
「俺はもう気にしてないけれど、エドゥは何かあるわけ?」
「君の父から暗殺者一族であること、贄に来るまでに至った経緯を教えられた」
エドゥアールヴァレットはそう言って父アームレットと二人きりになった時の事を話す。シャルルが部屋を出てから彼は自分たち一族の話を明かした。
国お抱えの暗殺者一族であり、数々の任を任されてきたことを。それからシャルルが贄になった経緯である、ユリウス暗殺の任の事も、事細かに。
父アームレットが「神である|豊穣《ほうじょう》龍様に隠し事はできませんので」と、もっともらしい理由を言っていたようだが、エドゥアールヴァレットには企みがあるのが丸分かりだった。
だから、彼に言ったのだ。シャルルに聞きたいことがあると。
「君の父はそんな息子が神の伴侶では申し訳ないと、番解消を勧めてきた。それだけでシャルルをどうにかしたいという人間の要らぬプライドが見えたんだ」
「だから、俺に聞きたいことがあるって言ったんだ」
「シャルルならば、真意を教えてくれるだろうと思ったのだ」
君は自分の気持ちに素直だから。エドゥアールヴァレットが身体を起こしてシャルルの顔に触れる。少しばかり冷たい手が頬を撫でて、シャルルはくすぐったく感じた。
噓偽りなく答えてくれるはずだ。エドゥアールヴァレットの言葉にシャルルはそうだなと頷いた。あの場で嘘をつく理由はないし、そんなつもりもなかった。
「エドゥと一緒に居たいのは本心だよ。俺は親に愛されていなかったから」
兄と弟妹は大切な存在として自分を受け入れてくれたけれど、親の愛を感じたことはなかった。愛というのを感じる前に、自分は死に戻ったのだ。
あんなくそみたいな結末を迎えるぐらいならばと、妹のためにもなる贄になったのは事実だ。どうにかならないかといった邪な考えがあったのも。
それでもいいとエドゥアールヴァレットは言ってくれて、弱さの中にある強さに惹かれてくれたのだと教えてくれた。
「兄さんやミサエル、リリアーヌ以外で認められたのって初めてだったんだよね。父は俺を使い捨てにできる程度にしか思ってなかったし。だから、嬉しかったんだ」
あの時に感じた温かさと不思議な感覚、あれは嬉しさだったと今なら分かる。それでいて、その温かさから離れたくもないと感じた。
「なんていうか……なんだろ……ここまで愛されると傾くというか……」
エドゥアールヴァレットの神なりの愛し方というのを信じられるようになった。だから、気持ちも傾いていくのは必然だったのかもしれない。
ただ、シャルル自身こういった感情をまともに抱くのは初めてなので自信がなかった。
なので、はっきりとした言葉にできなかったわけだが、それでも通じたらしい。不満が含まれていた表情から、機嫌よさげなふうにエドゥアールヴァレットの顔が変わった。
そっと両頬にエドゥアールヴァレットの手が添えられて持ち上げられて、軽い口づけが落とされる。一度、二度と口づけを交わして彼は名を呼んだ。
「シャルル、抱いてもいいだろうか?」
「……いい、けど」
言ってほしいとは言ったものの、いざそうされるとなんだか恥ずかしい。だから、視線が逸れてしまったのだが、エドゥアールヴァレットは気にしていないふうだ。優しく頭を撫でてから唇を重ねてきた。
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