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第25話 龍の想いは一途
午前の陽ざしを浴びながらシャルルは神殿の裏を訪れていた。そこは|豊穣《ほうじょう》龍に捧げられた贄が眠る墓場がある。
ウーリンとヤーヘンの二人が管理しているため、周囲の掃除は行き届いていた。綺麗に磨かれた墓石が花々に囲まれて並び建っている。
一つの墓石の前にサジェンタが立っていた。その隣には彼の付き添いとしてユリウスがいるが、声をかけずに黙って祈りを捧げている。
「本当に弔っていたんだな」
「私は嘘が嫌いだ。自分に嘘をつくことはしない」
「ルーミアの最後はどうだった」
墓石に向けていた眼を後ろにいるエドゥアールヴァレットへ移す。それは怒りではなく、ただ彼女の最後を知りたかったように愁いていた。
エドゥアールヴァレットは思い出すように顎に手をやってから、「恐らく」と口を開く。
「彼女の言伝は君へのものだろう。死を覚悟し、恐れてはいなかった数少ない贄の一人だった。なので、言い残すことはないかと慈悲を与えた」
ルーミアは死を受け入れていた。恐れることなく、その身を捧げる覚悟にエドゥアールヴァレットは言葉を残すことを許したのだという。
その時、彼女は「言伝を頼みたいのです」と言った。
「もし、私を探すような龍が居たら伝えてください。私は貴方と出会えて良かったと」
私の両親も、国王陛下も、国民たちも。それから豊穣龍様のことも恨まないで。私はとっても幸せだったの、贄となっても。だから、私の分までたくさん生きて、幸せになってね。
ルーミアは微笑みながら言っていた。その言葉に嘘一つなく、ただ一人の幸せを想っていたと。エドゥアールヴァレットは「これはきっと君の事だろう」と話す。
「あぁ、オレだろうな……」
「彼女の想いに応えられるのは君だけだろう」
「そうだな……。たくさん生きて、幸せにならないとな……」
彼女のことを思い出してか、サジェンタは空を仰ぐ。その眼には涙が滲んていた。
サジェンタは愛したい人への想いをやっと昇華できたのだ。止まっていた時を動き出すように。
そっとユリウスがサジェンタの傍から離れた。それは彼を一人にさせてあげようという気遣いからだとシャルルは察する。
「エドゥ」
「……もう少しここにいるといい、サジェンタ。私たちは神殿の門前に居よう」
シャルルの言いたいことをくみ取ったエドゥアールヴァレットはサジェンタに声をかけて歩いていく。シャルルもユリウスの背を押して、墓場を抜けた。
神殿の門前へと向かう最中、ユリウスが難しい顔をしているに気づく。悩むような、そんな表情にシャルルが「どうしたのさ?」と声をかけた。
「僕はサジェンタさんのために何かできることはあるのかなって」
同情だと言われたら否定はしない。でも、彼を一人にしたくはないと思う気持ちに嘘はなかった。ユリウスの心情にシャルルはいつの間に仲が深まっていたのだと知る。
(そりゃ、一緒にいれば仲も深まるよな)
お茶会で会ってはいるけれど、身近にいるわけではないので彼らがどう仲を深めたのかをシャルルは知らない。
けれど、ユリウスの悩む様子を見れば、少なからず気持ちが傾いているのも察することできる。
「ユリウスの知るサジェンタは何かしいてほしいと望むような龍なの?」
シャルルがそう問えば、ユリウスは黙って首を左右に振った。彼はそういった望みを言う龍ではないと。
「サジェンタさんは僕と一緒に居ると過去を引きずらなくていいって言ってくれるんだよね」
自分を助けてくれた人間の死を忘れることはしない。けれど、引きずられそうになる心をユリウスと一緒に居る時は留めておくことができるらしい。
何故かと問われるとサジェンタにも分からないらしいが。シャルルはその話に彼もユリウスに惹かれているのだと確信する。
「一緒にいてあげることが、サジェンタさんにできること……かな」
「話を聞くとそう思うね」
「龍の傍にいるということは覚悟しなくてはいけない」
神殿の門前までやってきてエドゥアールヴァレットが立ち止まり、振り返りながら言った。びくりと肩を跳ねさせるユリウスに「龍全般に言えることだが」と口を開く。
「龍というのは一途であり、余程の事がない限りは心変わりというのはしない」
龍は番を生涯、愛する。一途に想い、大切にする。番が生涯を終え、解消されても暫くは引きずるのだという。番でなくとも、愛していたのならば失った後はなかなか立ち直れない。
再婚することもあるがそれは立ち直れたからだ。あるいは、番や愛した人の願いや許しがあったからで、そうでなければ引きずり続ける。
「私が死ぬまではシャルルも死ぬことがない。なので、引きずるというのはないが。サジェンタはルーミアに対して愛情を抱いていたから引きずっていたのだ」
君と一緒にいると引きずらなくて済むと彼が言っているのならば、少なからず惹かれているということだ。エドゥアールヴァレットの言葉にユリウスは「惹かれている」と胸を押さえた。
「君がどう選択するか、私に言えることはない。だが、龍の傍に居るということは、彼の愛を受け入れるという答えでもある」
友人として傍にいるのと、彼の支えになるために隣にいるのとでは意味が違う。龍の友人であり続けるならば、一線を引かねばならず、支えになりたいのであれば受け入れるしかない。
エドゥアールヴァレットは言う。答えを間違えれば、お互いに傷つくことになると。
「よく考えるといい」
「わかりました」
エドゥアールヴァレットの言葉が響いているようで、ユリウスは思い悩むように俯いた。
シャルルは気の利いたことが言えず、彼の肩をそっと叩く。答えが見つかるよう応援するように。
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