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第26話 見物料の次は婚姻の祝い

 朝、起きたらエドゥアールヴァレットの姿が無かった。何処だろうかと長い廊下を歩き、謁見の間の前までやってきて――女性の大笑が聞こえた。  なんだろうかと扉をそっと開けて覗いてみれば、女性が一人腹を抱えて笑っている姿が見える。  長い新緑の髪を豪奢な髪飾りで高く結った、艶やかな緑のドレスを着こなすスタイルの良い女性。だが、その手には酒瓶が持たれていた。 「はーっあっははっ! ヴァレットが、そこまで一途になるとは、思わなかったわぁあ」 「君の性格がだいぶ悪い事を私は改めて実感した、風神ラファール」 「あら? わたくしのおかげで素敵な伴侶に出会えたことを感謝するべきではなくて?」  シャルルはこの声にどこか聞き覚えがある。思い出そうとしていれば、ラファールと呼ばれた女性が振り返った。目と目が合って――「こっちにおいでなさい」と手招きされる。  呼ばれては行かないわけもいかず。シャルルが二人に近寄れば、ラファールは酒瓶をあおった。 「いやぁ。あんたの人生、だいぶ面白いとは思っていたけれど。まさか〝やり直しの機会〟を与えてあげたら、真面目な豊穣龍の伴侶になるなんてねぇ」  やり直しの機会。その言葉にシャルルは死に戻った時に聞いた「見物料は払ったわよ」の声だと思い出す。ラファールは「思い出したかしら」と笑いながら話した。 「あんたの人生が可哀そうだったから眺めてみたの。そうしたら、死ぬ時まで強気で、しかも神に見物料を払えという度胸。もうおかしくってねぇ。だから、払ってあげたのよ」  どうやら、シャルルの死ぬ直後の心境をラファールは聞いていたらしい。どういった結末を迎えるかを眺めていただけだったが、その度胸を気に入って見物料を払ったのだ。  どうやってやり直すのだろうかとわくわくしていたら、豊穣龍の贄になるルートを選択して驚いたとラファールは話す。 「そんでもって、ヴァレットが気に入るものだからさらに驚いたわよ。しかもあの子龍サジェンタの誤解も拭い去るなんて。ほんっと、飽きさせないわぁ」 「……エドゥは知らなかったの?」 「私は今、知った」  彼女が婚姻の祝いを持ってきたついでに教えてくれたんだ。エドゥアールヴァレットは別段、気にしている様子はなかった。  この女神ならそんなこともするだろうといったふうで。それだけ神様の間で風神ラファールの性格は知れ渡っているのだろう。 「あぁ、神殿内は結界が張ってあるので神であろうと覗き見ることはできないから安心してほしい」 「だから、様子見がてら顔を出したのよ」 「なるほど」  別に邪魔しに来たわけじゃないから安心して頂戴。ラファールはそう言って酒を飲む。なんとも豪快な彼女に神様というのは多種多様なのだなとシャルルは知る。 「要件は終わっただろうか?」 「あと一つ。シャルル」 「俺?」  名前を呼ばれてシャルルが首を傾げれば、ラファールは微笑んだ。 「近々、お前の友人ユリウスにちょっとしたハプニングがやってくるかもしれないから防いであげなさい」 「はあ?」 「あんたなら気づけることよ。あと、それを利用して気持ちを吐き出してしまいなさい」  それだけよ。ラファールは酒を飲んで「婚姻の祝いに貰っとけ」と言って謁見の間から出て行ってしまった。  もう少し教えてくれないか。シャルルの文句を察したようにエドゥアールヴァレットがすまないと謝罪する。 「彼女はあぁいう性格なんだ」 「そうなんだろうね。……にしても、ハプニングなぁ」  ハプニングってなんだろうか。自分だから気づけることとは。シャルルは疑問を抱くも、自分なら防げると断言する女神の言葉を一応、信じておく。 (てか、気持ちを吐き出すってどういうことだ?)  気持ちとは。ぱっと浮かんだのはエドゥアールヴァレットへの感情だったが、本人を前にして口に出せるわけもなく。  彼も彼でラファールの言葉を気にかけているふうだ。なので、自分は大丈夫だよと声をかけておいた。

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