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第27話 女神が言っていた事はこの事だった

 今日はユリウスの邸宅で親睦会が行われる日だ。友人や仕事関係者などが招待されて、ささやかなパーティが開かれる。  夕刻のユリウスの邸宅のホールには招待された貴族たちが集まった。そんな中、シャルルは目の前で行われている攻防戦を酒を飲みながら眺める。  ハルロットとリヴァスがユリウスを挟んで言い合いをしているのだ。自分こそ隣に相応しいのだと。 「シャルル兄さん、あれいつもなの?」 「そうだよ、ミサエル。なぁ、リリアーヌ?」 「いつもですわね」  シャルルの弟であるミサエルはリリアーヌの保護者として一緒に招待されていた。アレックスは仕事で参加できていない。  エドゥアールヴァレットはというと、ユリウスの両親に挨拶をしに行っている。  ふと、サジェンタが見当たらないなと周囲を見渡してみれば、少し離れた場所からユリウスを見つめていた。  その表情は何処か寂しげで、けれど自分から声をかけない。遠慮しているのか、距離を取っている。 (身を引こうとしているのかもしれないな、あれ)  いくら龍とはいえ、何の地位もない彷徨っていただけの存在なのだ。爵位を持つハルロットや、王子のリヴァスには敵わないと思うのは自然だ。  こればかりは仕方ないかとシャルルが何杯目かの酒を飲めば――ユリウスの「いい加減いしてほしいんだけど」という怒った声が耳に入った。 「勝手に話を進めないでほしい。誰を選ぼうかなんて、僕自身が決めることでしょ」  ユリウスの強い口調にハルロットとリヴァスが言い淀む。その通りだけれど、相手を選ばれるのは嫌だというように。  そんな二人にユリウスは「僕は」と宣言した。 「二人の事を友達としか思ってない。選ぶことはないよ」  それはもうはっきりと迷いなく。あまりのことにハルロットは目を瞬かせ、リヴァスは声が出ないといったふうだ。  ユリウスの宣言にシャルルはなるほどと頷く。 (決めたんだ、ユリウス)  彼は選択したのだ。それを裏付けるようにユリウスはサジェンタのほうへと駈け寄っていく。  サジェンタはといえば、距離を取っていたとはいえ、話は聞こえていたようで困惑していた。 「こんなところにいたんですか、サジェンタさん」 「……邪魔になるだろうと思ったんだ」 「え? いつもならリヴァス王子たちと言い合っているのに?」  ユリウスの指摘にサジェンタは「それはお前が困っていたからだ」と言い返す。それでも、ユリウスは「それだけなのかなぁ」とじとりと見遣る。  その視線には耐えられなかったのか、サジェンタは目を逸らした。分かりやすい反応にユリウスがくすくす笑う。 「冗談ですよ。僕に借りがあるんですもんね」 「……そうだ。返すまでは傍にいよう」 「返した後でも一緒に居ていいんですよ」  ユリウスの言葉にサジェンタは一瞬、理解できなかったようだ。疑問符を浮かべた表情を見せる。それから察したように「はぁ?」と声を上げた。  まぁ、そういった反応になるのは理解できる。シャルルは眺めていれば、ハルロットとリヴァスが信じられないと邪魔しに行こうとしていたので、ミサエルと共に二人の首根っこを掴んだ。 「はい、負けた人は黙って見守ろうねぇ」 「離せ、シャルル!」 「諦めたほうがいいですよ、王子」  ミサエルの「あれ見たら入る隙間はないですって」の一言にユリウスへ再び目を向ければ、なんとも初々しげに話す二人の姿があった。  うん、入れない。それはシャルル以外の誰もが思った事だった。リヴァスとハルロットがなんとも悔しそうにしているのをミサエルとリリアーヌが励ましている。  これは暫く引きずりそうだな。そんなことを思いながらユリウスを眺めていれば、二人の傍にあるテーブルに目がいった。  いくつかの料理と共に飲み物の入ったグラスが置かれている。その中の一つ、ユリウスの手前に置かれたグラスの飲み物が僅かに泡立っていた。 (盛られている)  瞬時にシャルルは判断する。暗殺者として育てられていたこともあって毒物や薬品の反応をシャルルは知っていた。  ユリウスを狙ったのは手に取れる箇所にあるグラスという点で予想ができる。 (もしかして、女神様が言っていたことって……)  これしかない。シャルルはユリウスがグラスを手に取りそうになって――何でもないように横から盗った。 「あ! シャルル!」 「ユリウス。これ、酒だよ。苦手だっただろ?」 「そうだったの! ごめん、ありがとう!」  ユリウスは助かったとお礼を言う。シャルルは「気にしなくていいよ」と笑みを見せながらグラスに口を付けた。 (この感じだと、毒じゃないな)  匂いと少しばかり舌に触れた感覚で毒ではないことをシャルルは判断する。ここに来て仕込まれてきた暗殺技術が活きた。  そもそも、神龍たるエドゥアールヴァレットがいるのだから、殺人を犯すことは考えにくい。嘘を見破ることができるのだから。 (ということは、嫌がらせか)  ユリウスはリヴァス王子に好意を寄せられていたのだ。嫌がらせをしたいと考える人間はいるだろう。 (|神龍の伴侶《俺》の友人って知っていてやったんなら、根性あるなぁ)  犯人捜しをしてもいいが騒ぎにはしたくないので、あとでエドゥアールヴァレット経由でしばいてもらおう。  なんて考えて飲んだふりをしたグラスをテーブルに置いた時だ。ぐらりと視界が揺れた。 (うげぇ……少量でも効くタイプの興奮剤だ、これ)  興奮剤。俗にいう媚薬だ。よくまぁこんなものを嫌がらせに使ったものだ。シャルルは犯人に毒づきながらも、どうにかしないとなと堪えながら考える。 「お兄様? 顔が赤いですけれど……」 「酔った」 「うっわ、兄さんらしい」  おえっとわざとらしくしてみせれば、ミサエルが呆れたように言ってくる。リリアーヌは心配そうで、傍に居たユリウスも「大丈夫?」と声をかけてきた。 「さっきから飲み過ぎなんだよ、兄さん」 「ちょっと加減を見失ってた。これは無理だわ」 「えっと、どうする?」 「ユリウス、申し訳ないけど帰っていい?」 「いいよ、ゆっくり休んで!」  僕の事は気にしなくていいよ。ユリウスの言葉にシャルルは「ごめんよ」と謝って、この場をミサエルとリリアーヌに任せることにした。  少し離れた場所で待機していたウーリンとヤーヘンを呼んで、シャルルはエドゥアールヴァレットがいるホールの入口へと向かう。  ユリウスの両親と談笑していたエドゥアールヴァレットがシャルルに気づいて―ー眉を寄せた。 「シャルル」 「エドゥ、気分悪くなったから帰らせて?」  理由は後で言うから。囁けば、エドゥアールヴァレットは何も問わずにユリウスの両親に断りを入れて、シャルルを抱き上げるとホールを出た。

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