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第6話 きょう、九条くんの部屋に行ってもいい?
それからはちょっと大変だった。
九条くんは真っ赤になってショートしちゃうし。
リーダーのSPは「今夜は坊ちゃんのために豪勢にしてくれ」と電話をし出すし。
ほかのSPたちも感極まった様子でサングラスを押さえるし。
九条家に着いてからの夕飯は、それはそれは豪勢だった。
ステーキもあればお寿司もあるし北京ダックだって用意してあった。
……九条くん、みんなに愛されてるんだな。
女中さんやSPたちに、にこにこ笑顔で見守られて、夕飯を食べた。
そんなこんなで、僕たちの初デートはラブラブバカップル誕生って感じで終わった。
夕食後、九条くんは僕の部屋を訪れた。
広々とした和室に、ぽつんとペンギンのぬいぐるみが座っている。
「ふふっ、可愛い。大事にするね。ありがとう」
「陽向が喜んでくれてよかった。ほかに欲しいものはあるか?」
「うーん……今はあんまり思いつかないかも」
「そ、そうか。ま、また、デートに行ったときでも、いい。なんでも買う」
九条くんは、僕がぬいぐるみを抱っこしているのを見て満足げだ。仏頂面なのに、幸せオーラがにじみ出てる。
僕はもう、些細な口角の違いで九条くんの気持ちが読み取れるくらいになっていた。
「次はどうしよっか。あ、遊園地とか行ってみたいな。ネズミーランド」
「わかった。次の休みに行こう。貸し切りには……」
「しなくていいからね」
わかった、と九条くんは頷く。
うん、庶民の感覚が身についてくれたようで安心した。
でも、きっとまた九条くんはたくさん買いたがるんだろうなぁって想像して、つい笑ってしまった。
数日前まで、もう会うことはないと思ってたのに。
次のデートが約束されてるくらいには、僕たちの距離は縮まっていた。
広い和室。肩が触れるくらいの距離。
こてん、と九条くんの肩に顔を乗せると、九条くんはびくりとした。
「……どうした、陽向」
九条くんがどぎまぎしながら尋ねる。
無表情を装おうとしてるけど、声はうわずっている。
九条くんの体温が伝わる。
安心して、どきどきする匂い。
僕は逸る心臓を押さえて、きゅっと手を丸める。
必死に呼吸を整えて、ふつうに聞こえるように、意識して。
「きょ、きょう、九条くんの部屋、いってもいい?」
心臓がバクバクしてる。
うるさいくらい、バクバクしてる。
自分で言い出したことなんだけど、とんでもないことを言ってしまった気がする。
僕はお風呂で入念に身体を洗った。
もう万全の体制っていうか、そもそも何を準備していいのかよくわかんないんだけど、とりあえず思いつくところは全部洗った。
浴衣を着て、髪を乾かして、深呼吸をして、いま九条くんの部屋の前に立っている。
檜の廊下が冷たい。つやつやして、妙に足裏に材質を感じていた。
目の前のふすまを開けるだけなのに、その一歩が踏み出せなくて、しばらく立っていた。
すう、はあ、呼吸を繰り返して、拳を丸める。
えいっ、と勢いをつけて、僕は目の前のふすまを開けた。
九条くんは布団の側で、正座をして待っていた。
「お、おまたせ……」
「あ、……うん。ま、まってない……」
「いや、そう、……そっかな」
九条くんはどぎまぎしたまま固まっている。
僕も頭が真っ白になってしまった。
薄暗い和室。
僕の部屋と同じ造りだけど、棚や机もあって、僕の部屋よりは物が多い。
中央に敷かれた布団は僕の部屋のより大きい。ふたりで寝てもあまるくらい。キングサイズの布団って初めて見た。
そっと部屋に足を踏み入れて、後ろ手でぱたりとふすまを閉じた。
無音。
ほのかな畳の香り。枕元の間接照明が部屋の中を朧気に照らす。
ごくり、と唾を飲み込んで、九条くんのそばに座った。
「……あの、……えっと、その」
「陽向、」
「よ、よろしく……お願いします?」
「あ、うん、よ、よろしく……」
ぎくしゃくしながら頭を下げると、九条くんもあわあわして頭を下げた。
お互い正座して向かい合っている。
九条くんは緊張しているのか、きゅうっと唇を噛んでいる。なんだかその様子が可愛らしかった。
「緊張しちゃうね」
「えっと……うん。その、いいのか、本当に」
「いいよ。僕は九条くんの”妻”なんだから」
固まる九条くんの手を握った。
緊張なのか、ちょっとかさついている。体温が熱い。
「僕さ。……行き遅れだったってのもあるし、モテないし……。だから、その……したこと、ないんだ」
「………えっ」
「ヒートも薄くて。だから……その、色気とか、あんまり、ない、と思うんだけど。その……してくれたら、嬉しいな」
伏し目がちに微笑むと、九条くんはごくりと唾を飲み込んだ。僕の手を握っている力を強める。
「陽向は、……可愛い。色気もある」
「え、あ、ありがとう」
「したことあるとか言ったら、相手を殺してたところだ」
「ふふっ、まさか」
「本気だ。……陽向の魅力は俺だけが知ってればいい」
九条くんが、じっと僕を見つめる。薄暗闇の中で、ぎらりと光る。
期待に鼓動が高鳴る。頬がぱっと熱くなる。
握られてる手が、優しいはずなのに、なんだか強くて、恥ずかしい。
「……抱かせてほしい、陽向」
低く掠れた声が、きゅんと胸に響いた。
僕はこくり、と頷く。
強く手を引かれて、立派な布団に押し倒された。
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